起業した人の大多数がぶつかるのが、資金の壁です。初期投資や当面の運転資金が必要だけれど、どこからどうやって調達すればいいか、起業に必要なコストがいくらになるのかわからない、そんな不安を抱えている人は多いのではないでしょうか。
資金調達には、補助金や融資などさまざまな手段がありますが、それぞれにメリットとリスクがあります。事業のステージや規模に応じて、どの方法を選ぶかが、その後の経営に大きく影響します。
この記事では、これから起業を考えている方や、すでに起業した人のために、スタートアップ時に利用できる資金調達方法の一覧と、資金調達における注意点をまとめました。
スタートアップの資金調達方法11選

1. 自己資金
まず最初に出てくる選択肢は、起業家が自分の貯金を資金にすることです。すでにあるリソースだけでビジネスをスタートする方法は、ブートストラップとも呼ばれます。返済義務がないのが最大のメリットで、圧倒的に自由度が高いため、自分のペースで事業を進められます。
自分の会社への事業投資となりますが、自己資金の用意があることは経営の面でもプラスになります。たとえば融資を受ける場合も、申請書には自己資金の金額や内訳を記載する必要があり、その金額は審査で重視されます。出資者や金融機関にとっては、起業家自身がどれだけ本気で事業に取り組んでいるか、返済能力があるかなどを見極める重要なポイントなのです。
自己資金を準備する際には、生活費とは別に事業資金用の口座を作り、そこに積み立てておくと管理がスムーズになります。
自己資金での調達は次のようなケースに適しています。
- 自分のペースで小さくビジネスを始めたい時
- 外部からの借入や出資を避けたい時
- 起業に向けてコツコツ貯められるだけの資金力がある時
2. 友人や家族からの資金調達
創業初期で金融機関や投資家からの調達が難しい場合は、友人や家族から資金を集める方法もあります。身近な人からの支援は精神的にも大きな支えになりますが、プライベートな関係での資金調達には慎重な対応が必要です。
お金を借りるのか、出資を受けるのか、返済時期や方法をどうするかなど、事前に明確に取り決め、書面に残しておくことも必要です。簡単な形式でも借用書や出資契約書を作成すると後のトラブルを防げます。事業内容や資金の使い道を丁寧に説明するとともに、事業が成功したときの還元方法についても事前に話し合っておくと、双方が納得した形で協力関係を築けます。
友人や家族からの資金調達は次のようなケースに適しています。
- 起業の初期で金融機関からの融資が難しい時
- 少額でもすぐに資金が必要な時
- 信頼できる身近な支援者がいる時
3. 地域ビジネスへの支援
地域ビジネスを考えているなら、地方銀行や信用金庫、商工会議所や自治体のサポートを受けられる可能性が高くなります。
地方銀行や信用金庫は創業者向けの融資を用意していることが多く、地域に根ざした事業には前向きに対応してくれる傾向があります。いきなり金融機関に相談するのが不安なら、まず商工会議所や商工会を訪ねましょう。事業計画書の作成や融資申請の準備を丁寧にサポートしてくれます。
特に自治体が実施する制度融資では、自治体・金融機関・信用保証協会が連携し、通常より低金利で融資が受けられます。利息の一部を補助してもらう利子補給制度を利用できる場合もあり、負担を大きく軽減できます。詳しい情報は地元自治体の創業支援ページで確認しましょう。
地域からの資金調達は次のような場合に最適です。
- 地元で店舗やオフィスを構えてビジネスを始めたい時
- 地域の制度や支援を活用して、費用をおさえたい時
4. 政策金融公庫
起業を考えている人がまず検討したい資金調達先のひとつが、日本政策金融公庫です。国が100%出資する政府系金融機関で、スタートアップやスモールビジネスを対象とした融資制度も多数あります。中でも新創業融資制度は、無担保・無保証で利用でき、多くの創業者に選ばれています。
融資の審査では、売上実績よりも、創業の動機や事業計画書、自己資金の有無などが重視されるため、事業を始めたばかりでも、しっかりと準備すれば申し込み可能です。また、資本性ローン(挑戦支援資本強化特例制度)は、黒字化するまで返済を後回しにできる仕組みになっています。借入でありながら自己資本とみなされる性質があるため、他の融資の審査でもプラスに働くことがあります。
事業計画書の作成に不安がある場合は、商工会議所や創業支援センターでアドバイスを受けることもできます。
政策金融公庫の利用は次のような場合に向いています。
- 創業したてで実績はないが、融資が必要な時
- 無担保・無保証で資金を調達したい時
- 費用負担を抑えたい時
5. 助成金
助成金とは、国や地方自治体がスタートアップや小規模事業者の支援として提供している、返済不要の資金です。融資と違って返済義務がなく、条件に合致すれば事業の初期費用や運転資金の負担を大きく軽減できるのがメリットです。
代表的な助成金には中小企業庁のIT導入補助金や事業再構築補助金、厚生労働省のキャリアアップ助成金、自治体による創業支援助成金などがあります。助成金は起業時だけでなく、設備投資や販路開拓、雇用拡大など事業の成長過程でも役立ちます。
ただし、助成金は「使った費用の一部が後から支給される」という仕組みが一般的です。そのため、申請時に使途を明確にし、支出後に内容を証明する書類を提出する必要があります。提出書類が細かく定められているため、漏れがないよう注意しましょう。
助成金情報は経済産業省や厚生労働省の公式サイト、中小企業庁のミラサポplusなどにまとめられています。各自治体も創業補助金やオフィス賃料補助、利子補給制度など独自の助成制度を用意しているので、事業に合った制度を事前に確認することが重要です。
助成金は、次のような時に活用できます。
- 初期費用の一部をまかないたい時
- 返済不要の支援を受けて、資金に余裕を持ちたい時
- 地域や業種に応じた制度を活用したい時
6. 銀行ローン
ある程度の信用や準備が整ってきた段階で選択肢に入ってくるのが、銀行からの融資、いわゆる銀行ローンです。メガバンクや地方銀行などが提供する事業者向けのローンは、まとまった資金が必要なときや、事業を拡大したいときに活用されます。スタートアップやスモールビジネス向けの開業資金に特化したビジネスローンを提供している銀行もあります。
銀行の融資は、政策金融公庫などの公的機関と比べて審査が厳しく、売上実績や信用履歴などが重視される傾向があり、起業して間もない段階では審査に通らないこともあります。また、個人事業主は法人よりも審査が厳しくなる傾向があります。
ただし、すでに実績が出てきている事業者であれば、低金利で大きな金額を借りられる可能性があるため、選択肢のひとつとして検討する価値があります。また、不動産を所有している場合は、それを担保にしてより長期の支払計画で、高額の借り入れができる場合もあります。
銀行の融資を受ける第一歩としては、まず取引のある銀行に相談してみましょう。申し込みにあたっては、事業計画書、資金繰りの計画、直近の売上資料や確定申告書などが必要になるため、事前の準備が大切です。
銀行ローンの利用は次のような時に向いています。
- ある程度の実績があり、まとまった資金が必要な時
- 信用を活かして、より有利な条件で融資を受けたい時
- 事業拡大に向けて計画的に資金を調達したい時
7. クラウドファンディング
クラウドファンディングは、多くの人から少額ずつ資金を集める方法です。自分のアイデアや商品に共感してもらうことで、資金だけでなくファンや購入者も同時に獲得できるのが特徴です。代表的なプラットフォームにはMakuake、CAMPFIREなどがあります。
スタートアップで活用しやすいのは、支援者が商品を予約購入する購入型のクラウドファンディングです。クラウドファンディングサイトで事業内容や支援者に対するお返し(リターン)の内容を公開し、目標金額の支援が集まれば資金調達が可能になる、という流れが一般的です。
クラウドファンディングは、資金調達の方法というだけでなく、商品への反応を知るテストマーケティングや、起業前のPRとしても活用できるのが特徴です。「実際に欲しい人がいるか」「価格設定は妥当か」などの反応を得ることができ、製品開発や販売戦略にも役立ちます。
商品やサービスをリターンとする購入型のほかに、支援者が出資者として株式を保有して資本参加をする株式型や、支援者がお金を貸与して利息を得る融資型といったクラウドファンディング方法があります。
クラウドファンディングの利用は次のような時に適しています。
- 商品の開発資金を集めたい時
- 起業前に市場の反応を知りたい時
- アイデアに共感してくれるファンや出資者を増やしたい時
8. ファクタリング
ファクタリングとは、取引先に出した請求書(売掛金)を現金化して、資金を早めに確保する方法です。請求書ファイナンスとも呼ばれます。
通常、商品やサービスを提供してから取引先が代金を支払うまでには、1〜2か月程度のタイムラグがあり、その間に次の仕入れや運転資金が足りなくなることもあります。ファクタリングを使えば、請求書を担保にして現金を先に受け取ることができるため、キャッシュフローを改善し、事業の継続性を保ちやすくなります。
利用の流れは、専門のファクタリング会社に請求書の売上債権を買い取ってもらい、手数料を差し引いた金額が即日または数日中に振り込まれるというものです。取引先に通知されない2者間ファクタリングと、通知される3者間ファクタリングがあり、2者間のほうが手数料が割高です。
ファクタリングは次のような時に向いています。
- 売上はあるが、入金までの期間が長く資金が不足しがちな時
- 銀行融資に頼らず、早めに資金を確保したい時
- 短期間だけ資金をつなぎたい時
9. ビジネスクレジットカード
事業用の支払いに特化したクレジットカードは、スタートアップに便利な資金調達手段のひとつです。仕入れや広告費、サーバー代、交通費など、日常的な経費をカードで支払うことで、引き落としを数十日後に遅らせることができるため、短期間の資金繰りを調整するのに役立ちます。
一般的な個人用カードとは異なり、ビジネスカードは利用明細を分かりやすく整理できたり、経費管理機能がついていたりと、事業用の支出に特化したサービスがついているのが特徴です。開業直後から申し込めるカードもあり、事業を始めたばかりでも一定の限度額内であれば十分に活用できます。法人登記がなくても発行可能なものもあり、その場合は個人の信用情報をもとに審査されます。
法人向けのカードの場合、キャッシング機能はついていないことがほとんどなので、現金が必要な場合には適していません。
ビジネスクレジットカードは次のようなケースで活用できます。
- 経費をひとつにまとめて管理したい時
- 開業直後でも利用できる支払い手段が欲しい時
10. ベンチャーキャピタル
事業が将来的に大きな成長を見込めそうであれば、ベンチャーキャピタル(VC)に株式を売って資金調達を行えるかもしれません。VCは、成長性のある企業に対して、株式を引き換えに出資を行う投資会社です。まとまった出資だけでなく、経営や事業戦略に関するアドバイス、人脈の提供など、事業を成長させるためのさまざまな支援を受けられることがあります。
VCから出資を受けるには、明確な成長戦略と説得力のあるビジネスモデルが求められます。すでにある程度のサービスやプロダクトが立ち上がっていて、これから急成長していく段階であることが前提となります。なお、VCからの出資を受けるには、一般的に株式会社であることが前提になります。
出資を希望する場合は、まず投資家向けの説明資料を準備し、公式サイトやスタートアップ支援イベント、アクセラレーター・プログラムなどを通じてVCにアプローチします。最近では、登壇形式のイベントや投資家とのマッチングサービスも増えており、以前よりはアクセスしやすくなっています。
ただしVCの出資は、資金を借りるのではなく、株式を譲渡することを意味します。出資比率や経営方針に影響が出る可能性もあるため、契約内容や資本政策については慎重に検討しましょう。
VCの利用は次のような時に向いています。
- 成長のために大きな資金が必要な時
- お金だけでなく、経営支援やネットワークも必要な時
- 投資家と協力しながら、スピード感を持ってビジネスを成長させたい時
11. エンジェル投資家
エンジェル投資家とは、起業経験がある個人や資産に余裕のある個人が、自分の資金を使ってスタートアップに出資する人のことです。比較的少額の出資が多く、資金だけでなく経営面でのアドバイスや人脈の紹介など、事業の成長を手厚くサポートしてくれるケースもあります。
VCと違い、少人数または個人で判断するため、出資までの意思決定が早いのが特徴です。プロダクトが未完成であっても、事業アイデアへの共感や創業者本人の熱意を評価して支援を決めることもあります。エンジェル投資家からの出資を受けるにも、一般的に株式会社であることが前提になります。
なお、出資を受けるということは株式を譲渡することを意味するため、資本構成や経営への関わり方については事前にしっかり合意しておきましょう。
エンジェル投資家の活用は次のような時に向いています。
- アイデアはあるが、初期費用の資金が足りない時
- 事業の立ち上げに伴走してくれる支援者がほしい時
- 将来の成長に期待してくれる出資者を探している時
スタートアップ企業が資金調達を行う際の注意点

調達方法ごとの特徴とリスクを理解する
融資と出資では、調達後の責任や影響がまったく異なります。融資は返済義務がある一方で経営の自由度が保たれますが、出資は返済不要でも株式を譲る必要があり、経営に関与される可能性があります。自分の事業フェーズや性格に合った手段を選ぶことが大切です。
必要な資金の金額と使い道を明確にする
事業計画を立て、どのタイミングでいくら必要なのか、どのように使うのかを具体的にしておきましょう。調達先にも説得力を持って説明でき、自分自身も無理のない資金繰りがしやすくなります。
複数の調達方法を組み合わせる
1つの資金調達方法に依存せず、複数の手段をバランスよく組み合わせると、リスクを分散できます。たとえば、初期費用は助成金と自己資金を組みあわせ、成長フェーズではVCへのアプローチを検討するなど、段階に応じた使い分けをするのもいいでしょう。
契約内容は細部まで確認する
特に出資やファクタリングなどの場合、契約書に書かれている内容をしっかり確認することが重要です。出資比率、返済条件、連帯保証など、将来的に影響が出てくる項目は専門家に相談しながら進めると安心です。
経営の自由度とスピード感のバランスを意識する
お金を得る代わりに、経営方針に口を出されることもあります。成長のスピードを上げたいのか、自分のペースを守りたいのか、バランスを意識して調達方法を選びましょう。
まとめ
スタートアップの資金調達は単にお金を集めるだけでなく、今後の事業の進め方や経営方針にも深く関わってきます。方法によっては返済の負担が生じたり、経営に影響が出たりする場合があるため、しっかりと準備し、計画的に進めることが大切です。
紹介した11の資金調達方法は、それぞれにメリットとリスクがあります。事業のフェーズや規模、自分自身の目指すスタイルに合わせて、最適な手段を複数選びましょう。必要に応じて専門家に相談しながら、無理のない範囲で資金を確保することが、長く安定した成長につながります。
よくある質問
スタートアップで多く利用されている資金調達方法は?
日本政策金融公庫の2023年度新規開業実態調査によると、スタートアップや新規事業を始めるときに多く利用される資金調達方法のランキングのトップ3は以下の通りです。
- 金融機関からの借入れ
- 自己資金
- 家族・知人からの借入れや出資
助成金や補助金を探せる場所は?
経済産業省、厚生労働省、中小企業庁のミラサポplusなどの公的ポータルサイトに最新情報がまとめられています。また、各自治体の公式サイトにも独自の助成制度が掲載されているので、「○○市 創業 助成金」などのキーワードで検索するのも効果的です。
エンジェル投資家と会う方法は?
スタートアップイベントやピッチコンテストへの参加が有効です。また、専門のマッチングサービスも提供されています。事前に事業計画やピッチ資料を整えていくようにしましょう。
文:Taeko Adachi