多くの買い物客が気軽にネット販売を利用するようになった現在、アメリカではDtoCを活用して成功したスタートアップ企業の事例が注目され、日本でも大手企業を中心に普及が進んでいます。売れるネット広告社の市場調査によると、2025年には、インターネットやSNSを介して行われるD2Cの国内市場規模は3兆円に達すると予測されています。
この記事では、DtoCビジネスモデルの特徴や導入のメリット・デメリットについて、国内外の成功例と共に解説します。
DtoCとは

DtoC(D2C)とは、ブランドや製造業者が消費者に直接販売するビジネスモデルのことです。英語のDirect-to-Consumer(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)の略で、企業は卸売業者や小売業者を介すことなく、企画から製造、販売までを一貫して行います。
DtoCのビジネスモデルでは、製造した企業が自ら商品の在庫を保管・管理します。さらに、顧客から注文を受けた後の商品の仕分けや梱包、配送の手続きといったフルフィルメント業務も、3PLなどの第三者機関に頼らず、自社で行います。従来の卸売りや小売りモデルとDtoCモデルとの流通経路の違いは以下のとおりです。
- 従来の卸売り・小売りモデル:メーカー > 卸売業者 > 販売代理店 > 小売業者 > 消費者
- DtoCモデル:メーカー > 広告やSNS、ECサイト > 消費者
DtoCにおいては、従来の卸売り・小売りモデルで必要となる卸売業者や販売代理店、小売業者といった中間業者を経由することなく、消費者へと商品を届けることができます。
DtoCが重要な理由

オンライン販売市場の拡大
オンライン販売市場は拡大傾向にあり、それに伴い、DtoCにおいても今後の市場規模の拡大が期待されています。Statista(スタティスタ、英語)は、世界のオンライン売上高が、2027年までに8兆ドルを超えるとの予想を出しています。小売店での販売では、消費者が店舗に足を運ばない場合は売り上げにつながることはありません。
一方で、DtoCモデルでは、消費者が店舗を訪れることなく商品を購入でき、迅速に受け取ることが可能です。そのため、Nike(ナイキ)やAdidas(アディダス)といった老舗ブランドも参入しています。
消費者ニーズの変化
消費者は、商品の価値や機能だけでなく、独自のコンセプトやブランドストーリーを持つ企業の商品を購入する傾向にあります。
従来のB2C(企業と一般消費者の取引)やB2B(企業間取引)においては、商品の特性や機能、魅力を伝えることに重きが置かれていました。消費者が魅力を感じる商品であれば販売へとつなげることができたからです。しかし近年は、高品質な商品を提供できる企業が増えたことにより競争が激化しました。これに伴い、消費者は商品のクオリティだけでなく、共感できる価値観があるかについても企業に求めるようになっています。また、優れた顧客体験(CX)を期待する消費者も従来より増えています。
ECサイトのビジネスモデルのなかでも、製造から販売、配送、アフターサービスまでを一貫して行えるDtoCなら直接顧客と接点を持つことができるため、顧客のニーズを迅速かつ正確に把握し、きめ細かな対応や製品改善を行うなど、顧客満足を高めるための戦略が取りやすくなります。
SNSの浸透
総務省の調査によるとSNSの利用者数は年々増えており、それに伴ってFacebook(フェイスブック)ショップやTikTok(ティックトック)ショップから直接商品を購入する消費者も増えています。ブランドや製造業者がSNSでショップを始め、DtoCの形態で消費者に販売を行うようになれば、こうしたSNSの利用者を顧客として取り込むことができるようになります。
サブスクリプションの人気増加
消費者庁の調査によると、サブスクリプションサービスの市場規模は年々拡大しています。サブスクリプションは今や、音楽や動画のストリーミングといったデジタルコンテンツだけでなく、食材配達やコスメなど幅広いジャンルで活用されています。それに伴い、DtoCとサブスクリプションビジネスを組み合わせたサービスが注目を集めています。製造業者が消費者に直接サブスクリプションを提供することで、企業にとっては中間マージンの削減やニーズの把握がやりやすくなるだけでなく、顧客にとっては何度も購入する手間が省けるというメリットがあるからです。特に、スキンケア商品や食品、サプリといった商品においてDtoCサブスクモデルを提案する企業が増えています。
ブランドや製造業者がDtoCの形態でサブスクリプションサービスを提供すれば、継続的な売り上げ確保を見込めるようになります。
DtoCのメリット
ブランドの魅力を直接伝えられる
DtoCでは、ブランドや製造業者から消費者へ直接情報を発信するため、商品やブランドの魅力を伝えやすくなります。自社独自のECサイトを開設して商品を直接販売するため、他社の情報に邪魔されることなく、自社の商品ブランドや会社の魅力を消費者に効果的に伝えることができます。一方、DtoCという形態を取らずAmazonや楽天市場などのECモールを通じて販売する場合は、商品が多くの競合商品と同じ画面に表示されるため、自社ブランドの魅力を際立たせて消費者に伝えることが難しくなります。
詳細な顧客データを収集できる
DtoCでは、自社でECサイトを管理するため、サイト訪問者や購入者に関する詳細なデータ、たとえば属性や購入履歴、閲覧したページなどの情報を直接収集でき、独自にアンケートを実施することも可能です。
顧客と直接コミュニケーションが取れる
顧客と直接コミュニケーションが取れるため、ダイレクトに顧客のフィードバックを得られます。カスタマーサービスも自社で担うことで顧客との関係構築も可能となり、より顧客満足度を上げられるような施策を実行しやすくなるでしょう。
利益率を上げやすくなる
DtoCのメリットとして、利益率の向上も挙げられます。商品の企画から販売までを自社で行うため、小売店や卸売会社、ECモールなどの仲介業者に支払う手数料が発生しません。コストの削減によって生まれた余剰を商品開発や販売価格という形で顧客へ還元することで、顧客満足度アップも期待できるでしょう。
マーケティング戦略を柔軟に展開できる
さまざまなマーケティング戦略を手軽に試しやすくなるのもDtoCのメリットです。DtoCの自社直販サイトでは、ECモールの規約などに縛られず、イベントやキャンペーン、ポイント制度など、自由に販売戦略を試すことができます。会社独自の魅力的なマーケティング戦略を実行することで、競合他社との差別化を図り、売上の増加を目指しやすくなります。
DtoCのデメリット
マーケティングや広告に多額な費用が必要となる
集客を自社で行う必要があるため、マーケティングや広告に多額の費用がかかる場合があります。大手小売店やECモールにおける既存の集客力を活用できないため、特に競争が激しい市場では、ブランドの知名度を高めるために多くの投資が必要です。
顧客サポート対応における負荷が大きい
顧客と直接やり取りすることで、顧客対応における負荷が増加する可能性があります。返品やクレームの処理、製品の使用方法に関するヘルプ、質問や問題への対応など、顧客満足度を維持するためのサポートが必要となります。
小売業者と関係が悪化する恐れがある
DtoCモデルを採用すると、商品を卸していた小売業者との関係が悪化する可能性があります。直販経路を作ることにより、小売業者は自社の販売機会が縮小するのではないかと懸念を抱く場合があります。実際に取引が減少した場合、小売業者が当該商品の取り扱いを中止する対応に踏み切ることも起こりえます。
サイバーリスクが増大する
自社でECサイトを運営することにより、サイバーリスクが増大します。ECモールや第三者のウェブサイトで販売を行う場合には、ウェブサイトがサイバー攻撃を受けた場合も、自社サイトに被害は及ばないためサイバーリスクは限定的となりますが、自社でECサイトを運営する場合はリスクを負うこととなります。
DtoCの国内での成功例
BOTANIST(ボタニスト)

BOTANISTは、大阪市が本社の株式会社I-ne(アイエヌイー)が手がけるヘアケア製品やボディーソープのブランドで、成分や香り、品質、パッケージデザインにこだわった商品展開が特徴です。同ブランドの商品は、各ECモールや小売店だけでなく、自社直販サイトでも販売されています。InstagramなどのSNSを使って、広告費をかけずに商品の認知を拡大させた成功例です。
BULK HOMME(バルクオム)

メンズスキンケアブランドのBULK HOMMEも、国内DtoCブランドの成功例です。同ブランドは、20代から30代の男性を中心に注目を集めており、SNSでの投稿などを活用してブルーオーシャンを開拓し、成功を収めた例です。
COHINA(コヒナ)

COHINAは、小柄な女性向けのファッションを手がけているアパレルブランドです。創業者は、低身長ゆえに洋服選びに苦労していたため、同じ思いを持つであろう身長150cm前後の女性に向けてブランドを開始しました。2017年11月の創業当初400人ほどだったInstagramのフォロワーは、今では22万人を超えています。
FABRIC TOKYO(ファブリックトウキョウ)

FABRIC TOKYOは、カスタムオーダースーツを販売しており、DtoCモデルを採用することで高品質なものを適正価格で消費者に提供しています。首都圏や関西圏を中心に実店舗を出店し、仕事帰りや外出の際に気軽に採寸ができる工夫がされています。採寸が済んだら、スマホやパソコンなどからネット購入ができる仕組みを採っています。顧客の性別や好み、洋服サイズなどのデータを活用して、顧客に最適なマーケティングを実践している好例です。
BASE FOOD(ベースフード)

BASE FOODは、1食あたりに必要な栄養素がバランスよく取れるパンや麺類の販売を行っています。「BASE FOOD Labo」と呼ばれるサイトを自社運営し、ユーザー限定のオンラインコミュニティを形成しています。同サイトは、ユーザー同士の意見交換の場として利用できるだけでなく、サイトログインや投稿、いいねの数などによりポイントが貯まる仕組みを採用し、ポイント数に合わせて割引クーポンやプレゼントがもらえるようになっています。商品は単品としてだけでなく、サブスクリプションの形でも購入できます。
DtoCの海外での成功例
Velasca(ヴェラスカ)

イタリアのスタートアップ企業Velascaは、シューズブランドとしてDtoCのビジネスモデルで成功を収めている好例です。イタリアの靴ブランドとしてのブランドイメージを保ちつつ、中間業者を介さないことで、消費者に適正価格での商品提供を実現しました。
Olipop(オリポップ)

飲料業界を代表するDtoCブランドのOlipopは、ニッチ市場の開拓に成功しています。ジンジャーレモンやストロベリーバニラ、シナモンコーラなど珍しいフレーバーを提供することで、健康食品愛好家からの人気を集めています。従来のソーダ飲料に代わる健康的な飲み物と言う位置付けでその地位を確立しています。
Bombas(ボンバス)

Bombasは、DtoC販売を行うアメリカのアパレルブランドで、履き心地の良い靴下の販売からスタートした企業です。同社は快適さにこだわった商品を展開しており、現在ではTシャツや下着、スリッパなどのアイテムも販売するようになりました。購入商品1つにつき、ホームレスのコミュニティに商品1つを寄付するという取り組みを行っており、この活動へ賛同する人々からの支持も多く集めています。
Gymshark(ジムシャーク)

フィットネス業界を代表するDtoC企業のGymsharkは、Instagram(インスタグラム)で600万人を超えるフォロワーを誇る人気ブランドです。インフルエンサーマーケティングを活用した戦略により、多くのファンを生み出しています。オンライン販売だけでなく、ロンドンに旗艦店を構えるなど、マルチチャネル販売を行っています。
Everlane(エバーレーン)

サンフランシスコで生まれたEverlaneは、持続可能なファッションに特化したアパレルブランドです。ファストファッションの流行の影響に左右されることなく、環境に優しいものを求める消費者を顧客として獲得しています。
まとめ
DtoCは、ブランドが卸売業者などを仲介することなく直接消費者に商品を販売するビジネスモデルを意味します。DtoCモデルを採用すれば、顧客に直接ブランドの魅力を伝えられるだけでなく、顧客情報を収集してマーケティングに活用することも可能となります。小売店や卸売会社などの仲介業者に支払う手数料の削減にもなることから、利益率の向上も目指せます。日本国内外で、さまざまな企業がDtoCのビジネスモデルを活用し、成功しています。
だれでもすぐにネットショップを始められるShopifyを利用して、DtoCに対応したECサイトを開設してみてはいかがですか。
DtoCに関するよくある質問
DtoCとBtoCの違いは?
DtoCはメーカーが直接消費者に販売するビジネスモデルを指すのに対し、BtoCはメーカーが卸売業者や小売業者、AmazonなどのECモールを介して消費者に販売するビジネスモデルを指します。
DtoCとはどういう意味?
DtoC(D2C)とは、Direct to Consumer(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)の略称で、ブランドや製造業者が消費者に直接販売するビジネスモデルです。
DtoCのメリットは?
- ブランドの魅力を直接伝えられる
- 詳細な顧客データを収集できる
- 顧客と直接コミュニケーションが取れる
- 利益率を上げやすくなる
- マーケティング戦略を柔軟に展開できる
文:Masumi Murakami