ニッチ市場を開拓できれば、小規模事業者でも安定した収益を得られる可能性があります。
この記事では、ニッチ市場の見つけ方やニッチ商品の例、ニッチ市場での成功例や成功のために大事なことなどを解説していきます。
ニッチ市場とは
ニッチ市場は、比較的規模が小さな市場のことで、「隙間市場」や「ニッチマーケット」とも呼ばれます。市場規模の大きなマス市場と比較すると、ニーズが限定されているのが特徴です。恒久的、あるいは一般的に需要が発生するモノやサービスではなく、人生の一時期や特殊な状況でのみ需要が発生するモノやサービスがニッチ市場を構成しているといえるでしょう。
ニッチ市場の例
- ブライダル関連市場
- マイナースポーツ関連市場
- 記念品市場
- 着物市場
- 葬儀用品市場
上記がニッチ市場の具体例です。いずれもすべての人から需要があるわけではなく、特定の人、または特定の時期に必要になる点で共通しています。
ニッチ商品とは
ニッチ市場をターゲットに定めたモノやサービスをニッチ商品と呼びます。ニッチ市場のため、見込み客の数は少ないですが、特定の層に確実な需要がある点が特徴です。そのため、需要をしっかりと捉えることができれば、ニッチ商品が事業の支えとなることも珍しくありません。
ニッチ商品の例
ニッチな商品は、サステナビリティ関連やペット関連、子ども関連や旅行関連などで数多く存在します。
サステナビリティ関連
- 海洋プラスチックごみをリサイクルした雑貨用品
- 動物実験を行っていない化粧品
- ヴィーガン向けの植物性ミルク
- 廃材から作られたソファー
上記がサステナビリティ関連におけるニッチ商品の例です。環境に配慮した商品、すなわち製造から販売、廃棄までの全過程で地球環境や社会、経済に配慮した商品は一部消費者から強いニーズがあるため、この分野ではニッチ商品が数多く存在します。
ペット関連
- ノミダニ対策のスプレー
- ペットカメラ
- オーガニックのペットフード
- 自然な環境を模したシェルターや登り木
ペット関連のニッチ商品例は、上記のとおりです。ペットを家族の一員として考える人が増えるにつれ、ペット関連の需要は細分化しています。このため、この分野にもニッチ商品が多数存在しています。
子ども関連
- ベビーカー
- 学生服
- ひな人形
- ランドセル
上記が子ども関連のニッチ商品の例です。子ども関連の分野では成長過程において一時期のみ需要が発生する商品も多くなっています。そのような商品は、ニッチ市場に属しているといえるでしょう。
旅行関連
- 旅行中の動画撮影を助けるスマートフォンアクセサリー
- 飛行機で移動中の負担を軽減するクッション
- 訪れた場所を記録できるスクラッチマップ
旅行関連におけるニッチ商品の例は、上記のとおりです。普段の生活では必要とならないようなものが、旅行する人の間では一定の需要があることがあります。こうしたものは、ニッチ商品の一つといえるでしょう。
ニッチ戦略とは
ニッチ戦略とは、ニッチ市場をターゲットに定め、モノやサービスを提供する手法のことです。競合が少ない市場に特化した商品やサービスを提供することで、市場の顧客を独占しようとする狙いがあります。
ニッチ戦略がうまくいけば、価格競争から抜け出し、より高い利益率を実現できるでしょう。さらに、モノやサービスが持つ独自性が事業者のブランド価値を高めてくれる利点もあります。
ニッチ戦略は、特にリソースが限られる小規模事業者や中小企業にとって、市場での地位を築くための有効な手段といえるでしょう。
ニッチ市場の見つけ方
ニッチ市場の見つけ方にはさまざまな方法がありますが、代表的なものは上記の3つです。
ターゲットを絞り込みニーズを特定する
ニッチ市場を見つけるため、まずはターゲットを絞り込んでいきましょう。その後ターゲットの目線に立ち、求められているモノやサービスが何かを丁寧に洗い出していきます。ターゲットが直面している悩みやその解決策に焦点を当てるのも、有効な手立てです。
たとえば、釣りが趣味の人をターゲットに定め、釣り竿の運搬に不満を持っている人が一定数いることを突き止めたとしましょう。そして、軽量でコンパクトに収納できる釣り竿が悩みの解決策となるのではないか、などと分析してニーズを特定していきます。
このように、ターゲットが持つ悩みに応えられるほど、ニッチ市場で成功しやすくなります。ターゲットを正確に絞り込み、潜在的なニーズをいかに掘り下げられるかが重要です。
他の企業が満たせていないニーズを見つける
他の企業が満たせていないニーズをいち早く見つけることもニッチ市場での成功には欠かせません。多くのモノやサービスは、幅広い顧客層に販売できるように大衆向けになっているのが一般的です。顧客のニーズが完全には満たされていない分野がないかを探してみましょう。
たとえば、腕や手首などに装着するウェアラブルデバイスに関して、どの企業も満たせていないニーズを考えてみます。一般的なウェアラブルデバイスは、若年層に向けて販売されているものが多く、高齢者向けの商品はあまり販売されていません。このような現状を踏まえると、健康に気を配っている高齢者には、ウェアラブルデバイスのニーズがあると考えられるでしょう。
そのあとは高齢者をターゲットに定めて「文字が小さくて読めない」や「突然倒れたらどうしよう」といった高齢者が抱えやすい問題点を解決できるウェアラブルデバイスを開発することを考えます。具体的には字を大きくして見やすくしたり、脈拍に異常があるなどの緊急時に家族へ通知したりする機能を取り入れるなどです。
また、ターゲットが限られており利益を出しにくい領域や、取り組むのに手間がかかる分野に挑戦することもひとつの手段です。このような取り組みにより、市場での位置を築き、シェアを確保することができるでしょう。
Google トレンドでキーワードの調査をする
Googleトレンドでキーワードを探すことも、ニッチ市場を見つける有効な方法のひとつです。Googleトレンドは、キーワード検索数の推移を過去5年から直近1時間まで細かく調べられるツールです。検索数の推移だけでなく、キーワードがよく検索される地域や関連事項を調べることもできます。
参入を考えている市場の名称をGoogleトレンドで検索してみた際、結果として表示された検索数がさほど多くない場合、それは検索している人数が少ないということを意味するため、その分野はニッチ市場の可能性があると判断できるでしょう。
たとえば「ウェアラブルデバイス」で検索すると、過去5年から現在にかけて、週間0~100ほど検索されていることがわかります。検索数はさほど多くないため、これはニッチ市場の可能性があると言えるでしょう。また、画面右下には「ウェアラブル サーモ デバイス」や「ウェアラブル デバイス リング」など、ウェアラブルデバイスに関連して注目を集めているキーワードも表示されます。
このように、検索数は少ないものの常に一定数は検索されているキーワードを探すことで、ニッチ市場が見つかりやすくなるでしょう。
ニッチ市場での成功例
COHINA
COHINAは、155cm以下の女性をターゲットに定めてファッションを提供することで、ニッチ市場での成功を収めています。アパレル市場において、小柄な女性は選べる服の点数やシルエットが限られてしまうという課題を解決するため、自身も低身長である二人がブランドを立ち上げました。モデルやマネキンの服が合わないという悩みを持つ女性に対して、ぴったりとフィットするファッションアイテムを販売することで、ターゲットの悩みを解決に導いています。
さらにCOHINAは、ターゲットの悩みをより深く理解するためにインスタライブを通じて顧客と直接交流し、得た意見や要望を商品開発に反映させることで、より多くの支持を集めています。
COHINAは、低身長女性が持つ悩みを創設者自身が深く理解していることに加え、ターゲットの意見を積極的に取り入れたことで、ターゲットの需要に的確に応えられました。その結果、ニッチ市場で成功を収めています。
FIRE KIDS
FIRE KIDSは横浜に本店を構えるヴィンテージ時計専門店で、1920年代から2000年頃までの高品質な時計を扱っています。ヴィンテージ時計は一般的な時計と比較すると高価で、個性的なデザインのものが多く、大衆向けの商品ではありません。しかし、ヴィンテージ時計は一点物の価値ある商品であるため、時計が好きな人には一定の需要があります。FIRE KIDSは、このようなニッチな需要に目を付けて事業を展開し、成功を収めています。
以前は横浜にある実店舗だけで時計の販売を行っていましたが、ECサイトを開設することで全国に販売できるようになりました。より多くのターゲットにリーチを拡大したこともFIRE KIDSの成功につながっています。特定の趣味を持つターゲットへ積極的にアプローチし、ニッチ市場で成功を収めた良い例として、FIRE KIDSの取り組みは参考になるでしょう。
BALMUDA
BALMUDAは、独自のアプローチで高級家電というニッチ市場に新風を吹き込んだ企業です。代表的な成功例が、20,000円を超える価格帯で販売された「BALMUDA The Toaster」です。
従来の市場においてトースターは5,000円程度で購入可能だった中、BALMUDAは20,000円以上の価格でトースターの販売を始めました。BALMUDAのトースターが人気商品となった理由は、他社にはないおしゃれなデザインや性能の高さにあります。特に水を使ったトースト技術や1秒単位にこだわった温度制御などがトーストのおいしさを最大限に引き出し、多くの人を魅了しました。
その後BALMUDAはトースターに限らず、掃除機やコーヒーメーカーなど、さまざまな製品で、同様の高級感を打ち出し、市場に新しい価値を提供しました。日本の家電市場においてはパナソニックや日立などの大手メーカーが主流だった中で、BALMUDAは高いデザイン性と機能性を求めるニッチな顧客層を見事に捉え、成功を収めたのです。
ニッチ市場での成功はマーケティングがカギ
ターゲット層の解像度を高める
ニッチマーケティングにおいて、ターゲット層の解像度を高めることが何よりも重要です。ターゲットが限られたニッチ市場では、見込み客の母数が少ないため、一般的なマーケティングの指標だけを追求しても理想的な成長は望めません。
そこで重要となるのは、ターゲット層のニーズや所属する業界など、細部にわたる洞察です。さまざまな情報を深く理解することで、より効果的な戦略を練ることができ、ターゲット層の潜在的なニーズに対して的確にアプローチできるでしょう。
集客のための発信方法を工夫する
ニッチ市場におけるマーケティングでは、ターゲットが限られているため、より多くのターゲットに働きかけられる集客が重要になります。そのためには、ターゲットが情報収集によく利用している媒体を把握し、その媒体を中心に効果的に商品やサービスの魅力を発信するとよいでしょう。
また、ターゲットがInstagram(インスタグラム)を活用しているなら、インスタマーケティングも有効な手段のひとつです。このほか、ブログやSNSをマーケティングに利用するのもよいでしょう。販売ページには記載していない商品の良さを語ったり、商品ができるまでの過程を写真・動画で投稿したりするなど、工夫を凝らして発信してみましょう。
発信方法を工夫し、提供しているモノやサービスをより多くの人に認知してもらうことが効果的な集客につながり、ひいてはニッチ市場での成功につながります。
商品をわかりやすく紹介する
ニッチ市場での成功は、商品をわかりやすく紹介することが不可欠です。ニッチな商品は広く認知されていない場合が多いため、まずはターゲットに商品の存在と価値をわかりやすい表現で伝えなければなりません。
重要なのは、ターゲットが抱えている課題をどのように解決できるかをわかりやすく示すことです。わかりやすく説明できれば、ターゲットは提供される商品が現状をどのように改善してくれるかを想像しやすくなります。結果的に、購入につながることでしょう。
ただし、多くの人に当てはまるような一般的な説明は避けた方が無難です。ニッチマーケティングでは、ターゲットに特化した訴求が求められます。誰にでも当てはまるような説明はターゲット層にあまり響かない可能性があります。
ニッチ市場のメリット
ニッチ市場をねらうメリットは、上記の3つです。いずれも、一般的な市場に参入する際には得るのが比較的困難です。こうしたメリットに対し、とりわけ個人事業主や中小企業は魅力を感じやすいでしょう。
競合が少なく収益を伸ばしやすい
ニッチ市場では競合が少ないため、独自の商品によって市場シェアの大部分を占めるチャンスがあります。また、競合が少なければ価格戦争に巻き込まれるリスクが低く、適正価格で商品を提供できるでしょう。
ニッチ市場では薄利多売の戦略ではなく、顧客単価を高める方向で事業を展開できるため、市場規模が小さくても収益を伸ばしやすい特徴があります。
広告費を削減できる
ニッチ市場では特定のターゲットに焦点を当てるため、全体に広告を打つより少ない費用で効果的な宣伝が可能です。競合が少ないことから広告スペースの価格も抑えられる強みもあります。
さらに、一般的な商品では満たせないニーズに応えることができるため、顧客に満足してもらいやすく、口コミなどで商品が広がりやすい利点もあります。顧客の口コミは費用がかからないうえに、同じような悩みを抱える人の購買意欲を刺激しやすいため、非常に効果的です。
ニッチな趣味を共有するコミュニティで口コミが広がれば、より多くのターゲットに対して効率的に商品を認知してもらうことができるでしょう。
顧客と良好な関係を築きやすい
大衆向けの市場と比較すると、ニッチ市場は顧客と良好な関係を築きやすい傾向があります。独自のニーズに特化した商品やサービスを提供している事業者は少ないため、顧客のニーズにうまく応えることができれば、その後も購入し続けてくれる可能性が高いです。
顧客維持(カスタマーリテンション)に力を入れることで、収益を安定化させることもできるでしょう。さらに、顧客と良好な関係を築けていれば、口コミなどで評判が広がり、徐々に新規顧客を獲得することにもつながります。
ニッチ市場のデメリット
需要がまったくないリスクがある
ニッチ市場への進出は表面的には魅力的に見えますが、需要がまったく存在していないリスクがあることを理解しておきましょう。競合が少ない、あるいは存在しない市場には、何らかの理由があることが多いです。具体的には、市場規模が小さすぎて事業が成立していない、単純に消費者の需要が少ないなどが考えられます。
ニッチ市場での事業展開を考える際は、市場調査を徹底し、市場の需要や規模、将来性を詳細に分析することが不可欠です。
競合が増加する可能性がある
ニッチ市場が成長し顧客の関心が高まるにつれ、かつてはニッチだった市場も他社の目に留まるようになります。提供中の商品が他に選択肢がないという理由で選ばれていた場合、新しく市場参入する企業にシェアを奪われてしまうでしょう。
競合が増えても市場シェアを獲得し続けられるように、市場拡大を見据えた長期戦略と顧客が深い愛着を持つような独自の価値提供が求められます。たとえば、独自の技術を用いて商品づくりをしているなら特許を取得したり、何度も購入してくれる顧客に特別割引を提供したりする戦略は効果的です。
収益性に限界がある
ニッチ市場はターゲット層が狭いため、この市場で事業を展開する場合、売り上げが頭打ちするリスクが十分あります。そのため、莫大な利益を期待するのは現実的ではありません。ニッチ市場に参入すると、特定のターゲットから熱烈な支持を受けることはあるでしょう。しかし、市場自体が小規模であるため、売り上げを大きく伸ばすことは難しい傾向があります。
一方、自社が対象とする市場を拡大しようとすると、ニッチの範囲を超えてしまい、競合他社が増加するリスクが高まります。
したがって、ニッチ市場における事業展開は、莫大な利益より安定した収益を目指す方向性で考えた方が無難かもしれません。
まとめ
ニッチ市場は、一般的な市場より比較的小規模な市場のことで、特定のニーズに応える商品を提供しているのが特徴です。参入している企業が少ないことから、収益を伸ばしやすいものの、需要の有無を的確に見極めないと初期投資の回収に時間がかかるリスクがあります。そのため、競合が少ない市場を見つけたら、まずはなぜ競合が少ないのかを考えることが重要です。
COHINAやFIRE KIDSのようにターゲット層の具体的なニーズを捉え、独自の価値を提供することで、ニッチ市場で際立った存在となることが可能です。ECサイトを通じてニッチな商品の販売を考えているなら、サイト開設が簡単で多様な機能を備えているShopifyをぜひご利用ください。無料体験も実施しています。
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よくある質問
ニッチ市場とは?
ニッチ市場は、一般的な大衆市場に対して独特のニーズを持つ小規模な市場を指します。特殊な要求に応える商品やサービスで形成されており、一般的な商品やサービスでは満たされない特定の消費者ニーズを対象としています。
一般的な市場とは異なり、ニッチ市場は参入のハードルが比較的低いため、小規模企業や新規事業者にとって魅力的な市場といえるでしょう。
ニッチ商品とは?
ニッチ商品は一般的な大衆市場ではなく、特定の顧客や独自のニーズに焦点を当てた商品のことです。ニッチ商品はまだ十分に満たされていない需要を充足するために設計されたものを指し、ターゲット層は限られているのが特徴です。市場規模は小さいものの、ターゲット層には高い価値を提供できるため、収益を伸ばしやすいメリットがあります。
ニッチな市場の商品例は?
- トランスジェンダー向けのアンダーウェア
- 長時間の着用でも疲れにくいブルーライトカットメガネ
- ホームセキュリティカメラ
- 地元の工芸品のDIYキット
- ウエディングドレス
ニッチ市場で販売できる商品例として、上記の一覧をご覧ください。いずれも大衆向けではありませんが、特定の顧客層に人気があるニッチな商品です。
ニッチ市場にはどんなリスクがありますか?
ニッチ市場は、競争が激化するリスクがあります。新しい市場分野を切り開くため、必ずしもターゲットから支持を得られるとは限らず、市場が十分に成長しない可能性もあります。さらに、市場が成長し始めると競合他社が参入してくる可能性があり、独占していた地位が揺らぎ、収益性を維持できなくなる場合も多いです。
文:Yukihiro Kawata イラスト:Rose Wong