事業計画書はビジネスの成功に欠かせないツールです。これは法人だけでなく、個人事業主にとっても同様です。事業計画を文書としてまとめることで、起業するときや融資をうけるときなどに使えるだけでなく、ビジネスの目標や戦略、行動計画、スケジュールなどが明確になり、目標達成への道筋がはっきりします。
本記事では、個人事業主の方向けに、事業計画書テンプレートやテンプレートを使った事業計画書の書き方を解説します。
事業計画書テンプレートとその内容(個人事業主向け)

事業計画書のテンプレートは、新しいビジネスを始める際に決めるべきことを個人事業主がしっかりと考えられるように作られています。こういったテンプレートを使うことで、ビジネスの全体像を捉え、成長に合わせて対応する必要がある領域を特定できます。
ただし、テンプレートは汎用性に特化しているため、事業計画書を読んでもらう特定のターゲットが求める具体的な内容が含まれていない可能性もあります。事業計画書の目的に合わせて内容を確認するようにしましょう。以下は、一般的な個人事業主向け事業計画書テンプレートに含まれる内容です。


1. エグゼクティブサマリー
エグゼクティブサマリーとは、事業計画書の冒頭に記載される、全体の要点を簡潔にまとめた文章のことです。読み手がここを読むだけで文書の概要を把握できるようにするのが目的です。どのような事業であっても、以下の項目を盛り込むと効果的です。
- 事業の概要:事業の基本的な内容やコンセプト
- 事業の目的:事業の目的や意義、解決を目指す顧客の課題など
- 商品・サービスの特徴:提供する商品・サービスの強みやメリット
- 販売戦略の特徴:ターゲット層や価格設定など、販売方法の概要
エグゼクティブサマリーは、出資者や関係者に短時間で事業の全体像を伝えるだけでなく、経営者自身が事業の意義や理念を再確認し、今後の方向性を明確にする上でも重要な役割を果たします。
2. 事業者の概要
このセクションでは、事業者に関する基本情報を記載します。事業主と事業体制の全体像が簡潔に伝わる内容を心がけましょう。具体的には以下の項目を記載します。
- 代表者の情報(氏名、略歴、起業の動機など)
- 屋号
- 所在地
- 設立年月日
- 開業資金
- 従業員数
- 出資者や共同経営者の情報
この情報により、読み手は事業の背景や運営体制を理解しやすくなります。
3. 調査・分析結果
事業を始めるにあたっては、市場規模、競合の状況、自社製品の強みなどを客観的に調査・分析することが重要です。事業計画の策定では、こうした事業環境を把握する手法として市場・競合・自社の3つに着目する3C分析がよく用いられます。
4. 取扱商品・サービス
このセクションでは、自身が提供する商品やサービスの内容と、その価値についてわかりやすく説明します。取り扱う品目が複数ある場合は、すべてを羅列するのではなく、主力商品や代表的なサービスに絞って紹介すると効果的です。
独自のアイデアや新しい技術、著作権や特許などの知的財産権に関する情報や計画があればそれも記載します。
視覚的に伝える工夫として、商品画像や利用シーンをイメージできる図などを併用することも効果的です。これにより、読み手に強い印象を残しやすくなります。
5. 販売先・ターゲット
このセクションでは、商品やサービスを提供する対象顧客の特徴と、具体的な販売先や取引条件について記載します。
顧客層はできるだけ細かくセグメント化し、販売戦略やマーケティング施策の精度を高めましょう。
6. 販売戦略
このセクションでは、商品の販売方法や価格の考え方、販売チャネルやターゲット層へのアプローチ方法、そして販売目標の達成に向けた具体的なマーケティング戦略について記載します。
また、戦略の実行状況を確認するための指標(KPI)やマイルストーンも設定しておくと、計画の実効性が高まります。売上目標や販売件数、サイト訪問数など、進捗を数値で把握できる基準を設けることで、改善すべき点を見つけやすくなります。
7. 仕入れから販売までの流れ
このセクションでは、商品の仕入れから顧客へ届けるまでの一連の流れについて説明します。事業運営の実現性を示すためにも、各工程を具体的に記載することが重要です。
また、在庫管理を適切に行うための設備やシステムの有無についても記載しましょう。
仕入れから販売までの流れは、フローチャート、図表、イラストなどの図解を併用することで、読み手にとってさらに理解しやすいものになります。
8. 財務計画の概要
このセクションでは、事業の実現性や継続性を裏付ける財務計画について記載します。仮に銀行や投資家からの資金調達を予定していない場合でも、事業を安定的に運営するために必要な資金(キャッシュフロー)の見通しを明らかにすることは重要です。
将来的に資金が不足するリスクがないか、資金調達を行う場合には、その手段についても明記します。資金調達の方法は、自己資金以外にも、親族や知人からの借入、金融機関からの借入、助成金の利用などがあります。借入を行う際は、借入額や返済方法、返済期間、返済回数、金利などの条件もあわせて整理しておくと、より実現可能性の高い計画になります。
事業計画書の例

ここでは、これまでご紹介してきたテンプレートを活用した事業計画書の一例を紹介します。
個人事業として、ガラス工芸品の製造・販売を行う架空のEC事業をモデルにしたサンプルです。事業の構成や記載の流れをイメージするための参考資料として活用してください。


事業計画書を書くメリット

ビジネスのアイデアを整理する
事業計画書を作成することで、頭の中にあるアイデアを言語化し、実現に向けた道筋をはっきりさせることができます。「何を売るのか」「誰に届けるのか」「どうやって収益を上げるのか」といった基本的な問いに向き合いながら、自分自身の考えを整理するプロセスは、夢を事業としてかたちにするための第一歩です。
財務計画を明確にする
感覚的な経営になりがちな個人事業では、必要な生活費をしっかり確保しながら継続できる事業にするために、利益率や支出を見える化することが大切です。事業計画書があれば、売上目標や必要な経費、利益の見通しが明確になり、経営に対する不安を軽減できます。
また、資金が必要になったときには、融資や補助金の申請資料としても活用できます。スモールビジネスであっても、しっかりとした計画書があれば、事業への信頼度を高めることができます。
ビジネス戦略を深める
市場調査や競合分析を通して、自分の事業がどのような立ち位置にあるのか(ブランドポジショニング)を客観的に把握することができます。その結果、他の事業者と差別化するポイントや、自分だけの強みも見えてくるはずです。これは小さなビジネスでも確実に活かせる、ブランディングや販路拡大のヒントとなります。
事業の理念や目的を見つめ直す
事業計画書は、毎日の業務に追われる中でも、迷ったときに立ち返る「地図」としての役割も果たします。定期的に見直すことで、計画と現実のズレを把握し、業務改善などの軌道修正を行うことができます。
個人事業主にとって事業を始める理由や目指す姿を見つめ直す資料にもなるため、自分の理想とする働き方や生活とのバランスも確認できます。
事業計画書にテンプレートを使用するべき理由

誰かに読んでもらうことを意図していなくても、テンプレートを使って事業計画書を作成するのには大きな利点があります。
事業計画書を書く労力が減る
ゼロから事業計画書を作成するのはとても労力がいるものです。確立されたテンプレートを使うことで、事業計画書を書く手間を減らし、そのぶんの時間を重要な項目について考えたり調査したりする時間に充てることができます。
必要な項目が網羅されている
事業計画書テンプレートを使えば、必要な項目がすべて含まれているだけでなく、各セクションにどのように記入すれば良いか例などが示されているため、初めて起業する人でもポイントをおさえた効果的な事業計画書を作成できます。
チェックリストとしても使える
事業計画書テンプレートを使えば、各項目を埋めていくことで起業時に考えるべきことに漏れがないかチェックすることもできます。場合によっては、テンプレートのすべての項目を埋める必要はないかもしれませんが、事業に必要ない項目を把握することも含め、有益なチェックリストとして使えます。
成功する事業計画書を作成するためのヒント

- 目的・読者を明確にする:自分用なのか、融資・投資家向けなのかを明確にし、必要な内容や表現を調整します。専門用語の使用、図表の有無、記載レベルも読者に合わせて工夫します。
- 事業の全体像を6W2Hで整理する:Why(なぜやるか)、What(何を提供するか)、Where(どこで)、Whom(誰に)、When(いつ)、Who(誰が)、How(どうやって)、How much(いくら必要か)を事前にまとめておきます。
- 一気に書こうとせず、セクションごとに取り組む:取りかかりやすい部分から始め、メモや箇条書きで思考を整理して進めるとスムーズです。
- 情報は簡潔に、かみ砕いて伝える:専門的すぎず、第三者にも伝わる表現を心がけましょう。詳細なデータは添付資料に回します。
- 数字の根拠を明示する:売り上げ・費用・利益などの見積もりは、調査や見積書など具体的な根拠に基づくことが重要です。
- 視覚的な工夫を取り入れる:図・表・グラフを活用することで、内容が直感的に伝わりやすくなります。
- 調査と分析に時間と予算をかける:市場や競合に関する客観的な情報は、事業の信頼性や説得力を高めます。必要に応じて専門家の協力も検討してください。
- 文章のトーンやスタイルの統一に注意する:複数の資料を統合する場合は、読みやすさや表現の一貫性を確認してください。
- ツールやテンプレートを活用する:作成支援ツールやテンプレートは、書き始めの不安を和らげ、構成の抜け漏れ防止に役立ちます。
まとめ
事業計画書の作成にテンプレートを使用する最大の利点は、書き始めのハードルを下げ、必要な項目の抜け漏れを防げる点にあります。白紙から構成を考える負担を減らし、各セクションでどのような内容を記載すべきかについてもわかります。
テンプレートは、自身のビジネスに合わせて柔軟に調整できるため、初めての方でも安心して計画書を作成することができます。この記事で紹介したテンプレートやヒントを参考に、効果的な事業計画書を作成してください。
よくある質問
個人事業主向けの事業計画書は会社の事業計画書とどう違う?
個人事業主向けと会社の事業計画書の違いは、個人事業主の計画書は、自分で決定・実行することを前提に自分の目標達成を軸に構成されるのに対し、会社の事業計画書は組織運営や部門連携、投資戦略までを視野に入れる点にあります。
基本的な構成や目的は共通していますが、個人事業主の事業計画書は「自身のビジョンや動機」「規模に応じた現実的な収支」「生活との両立」がより重要になるのが特徴です。
文:Norio Aoki