起業して海外をターゲットにビジネスを展開したいものの、リスクが大きくないか不安、すでにあるEC事業の販路を国外にも広げたいけれど、海外向けのECフルフィルメントをどう選んだらよいか分からないなど、越境EC(えっきょうイーシー)に興味はあるけれど一歩を踏み出せずにいる人は少なくありません。
そこでこの記事では、越境ECとは何かといった基本的なことから、そのメリット・デメリット、成功事例など、効率的に越境ECを始めるために知っておきたいことを紹介します。
越境ECとは

越境ECとは、国境を越えた電子商取引(EC)のことです。クロスボーダーECやクロスボーダートレード(CBT)とも呼ばれ、インターネットを通じて海外のECサイトから商品を購入したり、日本のECサイトを利用して海外の消費者向けに商品やサービスを販売したりする取引を指します。
越境ECには大きく分けて以下の3つの種類があります。
- 自社ECサイト:国内・海外のサーバーを利用し、言語や決済システムなどをターゲットとなる国や地域に合わせて自社サイトを構築して海外販売を展開
- 海外発送に対応する国内マーケットプレイス:国内の海外対応ECモール(楽天市場、Amazon.co.jp、Qoo10など)に出店し、越境ECを展開
- 海外のマーケットプレイス:海外のECモール(eBay、Amazon.comなど)に出品し、現地のプラットフォームを活用して販売
越境ECのメリット

効率的に顧客を増やすことができる
日本国内だけでなく、海外の消費者をターゲットにすることで、効率的に新規顧客を獲得し売り上げアップにつなげることができます。
自社商品の需要が高い国や人口の多い国などに販路を拡大すれば、飽和状態にある日本市場よりも顧客獲得コスト(CAC)を抑えながら新規顧客を獲得することが可能です。特に、英語に対応した越境ECを始めれば、英語圏の国だけでなくヨーロッパ、東南アジアをはじめとする多くの国の顧客にリーチできます。
日本製品ファンに販売できる
日本製品は品質の高さで世界的に評価されており、特に日本独自の文化や伝統を反映した商品は海外市場で高い需要があります。越境ECを活用することで、世界中にいる日本製品のファンに商品を販売できるため、売り上げにつながりやすいというメリットがあります。
さらに、実店舗もあるビジネスの場合、越境ECで商品を購入した海外顧客が、日本を訪れた際に実店舗に足を運んでくれる可能性も高まります。
コストを抑えリスクを軽減できる
越境ECを活用すれば、従業員の手配や言語の壁、物件探しなどの負担なく海外の消費者をターゲットに商品を販売できます。さらに、保税倉庫を活用することで、現地での税制優遇を受けながらスムーズな物流管理が可能となります。
また、複数の国や地域に販路を持つことで、1つの市場に依存することなく事業運営できるため、国際情勢や経済状況による悪影響を抑えることもできます。
消費税が免税の対象になる
越境ECでは、一定の条件を満たして申請を行うことで、消費税の還付を受けることが可能です。消費税は、日本国内で消費される商品やサービスに対して課される税金であるためです。さらに、仕入れや発送費などにかかった消費税についても、条件を満たせば還付を受けることができます。
越境ECのデメリットと注意点

配送料が高い
越境ECでは、海外への発送に関税や輸送コストがかかるのが大きな課題です。商品の重量やサイズによって送料が大きく変動するため、販売価格の設定にも影響を及ぼします。
そのため、越境ECを行う際は、梱包方法の工夫や3PL(サードパーティーロジスティクス)業者の活用など、最適な配送方法・配送ルートを選定し、物流コストを下げることが重要となります。
販売先の国によって適用される法律や規制が異なる
越境ECでは、販売先の国ごとに異なる法律や規制に対応する必要があります。特定の商品や成分が含まれるものは輸入が禁止されている国もあり、販売できる商品が制限されるケースがあります。また、関税率や税制の違いによって、商品価格の見直しが必要になることもあります。
さらに、一部の国では配送方法に制限がかかるケースもあり、日本郵政の「国際郵便物の差出可否早見表」などを参考に、最新の発送条件を確認することが重要です。
言語・文化の違いへの対応が必要
越境ECでは、ターゲット国の言語や文化に適応した対応が不可欠です。ECサイトや商品ページの言語対応が不十分で不自然な翻訳があると、消費者の購買意欲が低下し、サイトの信頼性も下がる要因となります。そのため、自然で分かりやすい表現を用いた商品ページの作成が重要です。
また、国ごとに文化や商習慣が異なるため、販売する商品やサービスが現地の消費者に受け入れられるかを考慮する必要があります。市場調査を行い、国民性に合わせた商品展開を行うことが大切です。
為替変動のリスクがある
国際取引においては、通貨の価値が変動しやすいため、急激な為替変動によって利益が大きく減少するリスクもあります。
販売先の国の通貨で支払いを受ける場合、為替レートの変動によって売上額が変わるため、収益が不安定になる可能性があります。特に、通貨の価値が変動しやすい国を対象とする場合、急激な為替変動によって利益が大きく減少するリスクもあります。
これを防ぐためには、為替リスクを抑える対策が必要です。具体的には、外貨建て口座の活用や、売り上げをすぐに日本円に換金する仕組みの導入、一定期間の為替レートを固定するヘッジ手段を取ることで、リスクを軽減できるでしょう。
支払い通貨や決済方法の対応が必要
越境ECでは、販売先の国に適した決済方法と支払い通貨を選択する必要もあります。
国ごとに一般的な決済手段は異なり、クレジットカード決済が主流の地域もあれば、二次元コード決済や銀行振込が一般的な国もあります。そのため、ターゲット市場に合わせた決済方法を導入しなければなりません。
また、支払い通貨の設定も慎重に行う必要があります。日本円のみで決済するのか、販売先の現地通貨に対応するのか、あるいは一定の主要通貨(米ドルやユーロなど)のみを採用するのかによって、利便性や売上額が変わる可能性があります。
現地通貨に対応することで購入率が上がるケースもありますが、為替リスクや決済手数料も考慮する必要があります。
越境ECで成功する方法

越境ECを始める前に、海外販売の始め方だけでなく越境ECで成功する方法についても理解しておきましょう。
1. 市場調査をしてターゲットと商品を決める
まずは市場調査を行い、どの商品をどこに販売するのかを決めましょう。
例えば、日本貿易振興機構(JETRO)によると、中国人が越境ECで日本から商品を購入する際に重視するのは、品質や安全性、ブランドなどです。中国に限らず、特に日本の製品を販売する場合、品質の高い商品を選ぶことで、海外市場での成功につながるでしょう。
ターゲットの選定では、すでに商品が決まっていればその需要が高い国や消費者層を選びます。ターゲットを決めてから商品を選ぶ場合は、商品を販売したい国や年齢層、性別、ライフスタイル、ライフステージなどの細かい顧客像を決めましょう。
同時に、輸出先の関税率や法律なども調査しておく必要があります。特に、食品や化粧品、医薬品などのカテゴリーでは輸入規制が厳しい場合があるため、注意が必要です。国ごとの輸出入制限や関税の詳細については、JETRO(日本貿易振興機構)のホームページを活用すると、最新の情報を確認できます。
2. ターゲット市場に合わせたビジネス戦略を立てる
次に、ターゲット市場ごとにビジネス戦略を立てます。具体的には、主に以下の点をターゲット市場ごとにカスタマイズできるとよいでしょう。
- プラットフォーム:ターゲットとなる国やエリアで広く使用されているプラットフォームを使うと、ブランド認知してもらいやすくなります。
- サイトデザイン:国ごとに色に対するイメージやレイアウトの好みが異なるため、ターゲット市場の文化やターゲット層の嗜好に合わせたサイトデザインにします。
- 価格設定や割引の提供方法:配送コストなどを考慮し、競合分析を行ったうえで、ターゲット市場で競争力のある価格を設定しましょう。ターゲットによっては割引や特典の提供が効果的な場合もあります。
- マーケティング:ターゲットに合わせたマーケティング戦略を立てることも重要です。ターゲットにリーチしやすいマーケティングチャネルを選び、人気のSNSを使ったSNSマーケティングやメールマーケティングを行いましょう。
3. 配送方法を決める
EC物流の最適化も重要なポイントです。海外配送では配送手段によって送料や配送時間が変わるため、消費者の期待する配送速度に合うものや自分が使いやすい手段を選ぶようにしましょう。
主な配送方法と特徴は次のとおりです。
- EMS:比較的安価で個人向けに直接発送できるが、配送時間がかかることがある
- 宅配便会社の海外発送サービス:DHL、FedEx、UPSなどを活用し、迅速かつ安全に商品を配送可能
- 海外発送代行サービス:日本国内で商品をまとめて海外へ発送し、現地の物流会社が配送を担当
- 保税区や海外倉庫:海外の物流拠点から直接発送することで、配送時間を短縮しコスト削減が可能
また、通関手続きで配送に時間がかかる可能性があるため、事前に確認しておいたり、配送ポリシーなどに明記しておいたりする必要があります。
適切な配送方法を選定することで、顧客満足度の向上とリピーターの獲得につながるでしょう。
4. 現地に合った決済方法を採用する
ターゲット顧客が求める決済手段を用意します。決済代行サービスなどを活用して、多様な決済方法を提供できるようにしましょう。
Shopifyのような国際的なEC構築プラットフォームを活用すると、各国に合わせた決済サービスや通貨を簡単に導入できます。
5. カスタマーサポートを用意する
顧客がカスタマーサポートに求めるものは、国や文化によって少しずつ異なります。特に、海外の消費者は対応スピードを重視する傾向にあるため、迅速なレスポンスを心掛けることが重要です。
競合となる現地のビジネスがどのようなサービスを用意しているのか調べるなどして、ターゲット市場の商習慣に合ったカスタマーサポートを提供できるようにしましょう。英語で対応する場合、カスタマーサービスで役立つフレーズ集(英語)なども参考にするとよいでしょう。
6. 販売を開始し、随時改善する
販売を開始したら、ファネル分析やコンバージョン率の計算を行い、課題となる点を洗い出して改善を行います。サイトレビューや問い合わせ内容などから、顧客が感じている不便さや不安要素などを把握して顧客体験を高めることで、信頼関係を築き、リピーターの獲得につなげましょう。
越境ECビジネスの成功例
Tokyo Otaku Mode(トーキョー・オタク・モード)

Tokyo Otaku Mode Inc.は「Otaku文化で世界をハッピーに。」というビジョンを掲げながら、2013年から世界100カ国以上に向けて「Tokyo Otaku Mode Shop」で日本のアニメ・ゲームのキャラクターグッズを販売しています。Facebookのフォロワーは約2000万人で、越境ECビジネスを開始してから4年で25倍に成長しました。
トーキョー・オタク・モードはアリババグループのECモールにも出店し、ECzineのインタビュー記事によると、2015年の独身の日にはその1日だけで約2ヶ月分の売り上げを上げています。
この時の成功のポイントは、ターゲットを意識した商品販売でした。中国の顧客のニーズを理解し、かわいい系のぬいぐるみを販売することで爆発的な売り上げにつなげることに成功しました。
ICHIGO(イチゴ)

ICHIGOは、「日本の文化や体験を届ける」を理念に、日本のお菓子や雑貨を詰め込んだボックスを、世界150カ国・地域へサブスクリプションサービス型で販売しています。
ICHIGOの社員は7割が外国人で、販売先の国の事情に詳しい社員と共に顧客の立場に立って越境EC事業を運営しています。
日本で売れているものを販売するのではなく、世界で注目されているものをサブスクリプションサービスで販売し始めたのが成功のポイントです。ターゲットとなる国や文化に精通した社員と試行錯誤しながら、現地の需要を意識して越境ECビジネスを成功させています。
SAMURAI STORE(サムライストア)

SAMURAI STOREは、2003年から独自サイトとeBayを併用して越境EC事業を始め、鹿児島の甲冑工房と連携して「ヨロイ」を海外へ販売し、わずか5か月で売り上げ2000万円を達成しました。
以来、海外の富裕層のリピーターが増え、海外で売れにくいと認識されてきた一点物並びに高額な受注製品をオンラインで販売することに成功しています。
決済方法はSAMURAI STOREの世界各国の顧客に対応するため、PayPalを採用しています。販売実績は世界70カ国以上で、20年以上の越境ECビジネスのノウハウを積み上げてきています。
「ヨロイ」が日本で人気が高くなくても、海外の需要の高さに気付き、的確なターゲットを意識したビジネスモデルを確立させたのが成功の秘訣です。
越境ECが簡単に始められるShopify Markets

Shopify Markets(ショッピファイマーケット)は、Shopifyで越境ECをスムーズに展開するための機能を備えた越境販売管理ツールです。
Shopify Marketsには以下のような特徴があります。
- グローバルな販売のサポートをしてくれる
- ストアのローカライズができる
- 事業規模に応じて柔軟に対応できる
- 低コストで簡単に導入できる
世界170カ国以上に対応し、通貨や決済方法、言語のローカライズが可能なため、1つのストアで複数の海外市場を効率的に管理できます。特に販売地域ごとに価格設定や言語、通貨を最適化できるため、コンバージョン率の向上が期待できます。
さらに、要件を満たせばチェックアウト時に関税と輸入税を徴収できるほか、要件を満たしていない場合でもアプリを使って関税や輸入税を計算できます。
中小企業から大企業まで、規模を問わず柔軟に対応できる点も魅力です。Shopifyのサブスクリプションに登録していれば、Shopify Markets自体は無料で使用することができるため、リスクを抑えながら世界中の顧客にリーチすることが可能になります。
まとめ
言語や通貨、配送などハードルが高いように感じる越境ECですが、適切な商品を最適な国・ターゲット・価格で展開できれば、自社ビジネスをグローバルに拡大させることができます。行き詰まりを感じている起業家や売り上げを上げたい事業者は挑戦する価値が十分にあるでしょう。
新しくECサイトを構築するのであれば、Shopifyの利用がおすすめです。世界各地に販路を拡大することができ、通貨や決済方法、言語のローカライズも簡単に行えます。
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よくある質問
越境ECで売れている商品は?
越境ECでは海外で手に入りにくい高品質の日本製品や、日本でしか入手できない限定品などが売れています。ジャンルは「おもちゃ、ゲーム」「アパレル」「アクセサリー・時計」「家電」などが挙げられます。
越境ECと輸出の違いは?
越境ECと輸出の違いは、取引先が企業かどうかにあります。越境ECは、ECサイトやプラットフォームを通じて海外の個人や企業に商品を直接販売しますが、輸出は企業間の取引に限定されます。
また、越境ECは小口取引が多く手続きが比較的簡単で、オンライン決済が主流なのに対し、輸出は大口の取引で銀行送金や信用状を利用する点にも違いがあります。
越境ECの市場規模は?
越境ECの市場規模は、経済産業省によると、2026年には4兆8,200億USドルに達すると予測されています。この成長の背景には、ECプラットフォームの進化や国際物流の整備、デジタル決済の普及などが挙げられます。特に、中国やアメリカをはじめとする主要市場がけん引し、今後もさらなる拡大が期待されています。
文:Takumi