「価値提案」という言葉を聞いて、マーケティング用語であることはわかっても、その本質を理解している人はそれほど多くないのではないでしょうか。
自社商品の価値を伝えるために漠然と強みを考えてみたものの、うまく言語化できなかったり、他社との違いを伝えられなかったりすることもあります。
そこで本記事では、そんな悩みを抱える方に向けて、価値提案(バリュープロポジション)の基本的な考え方や使い方、作り方をわかりやすく紹介します。価値提案の事例も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
価値提案とは

価値提案(バリュープロポジション)とは、顧客に対して自社の商品・サービスがどのような価値を提供するのか、なぜ他社ではなく自社を選ぶべきなのかを明確に伝えるメッセージ、またはその構成要素です。
課題解決といった観点から顧客にとってのメリットを打ち出し、購入や契約などの行動につなげるために設計されます。他社との差別化ポイントのアピールにもなる価値提案は、ブランド戦略の一環としても極めて重要なものです。
価値提案の基本要素

価値提案の基本的な要素となるのは、以下の3つです。
- 顧客の課題やニーズの把握
- 製品・サービスの具体的なベネフィットの提示
- 競合との差別化ポイント(USP)の明確化
これらの要素を押さえることで、誰に・何を・なぜ届けるのかが明確になり、顧客の心に響くメッセージを構築できます。特に重要なのは、表面的なニーズだけでなく、潜在的な不満や本質的な課題まで掘り下げ、それに対する自社の独自の強みと成果を、具体的かつ定量的に伝えることです。価値提案を的確に設計すれば、信頼と共感を得て、購買や契約といった行動にもつながりやすくなります。
ブランドの個性を伝えるブランディングの観点からも、単なる特徴の羅列ではなく、感情や共感を呼ぶ価値の言語化が求められます。
価値提案の作り方

1. 顧客と競合を理解する
効果的な価値提案を作成するには、強みや差別化ポイントだと思っている部分に気を取られず、実際に顧客がどんなことを望んでいるのかを理解することが大切です。
そのためには、顧客に対してインタビューやアンケートを行い、「製品がどのように役立ったか」「なぜこの商品を選んだのか」といった具体的な声を集めましょう。
アンケート結果の分析なども行いながら、顧客のニーズを深く理解することで、価値提案を作るために最も重要な要素が得られます。
また、顧客が使う表現や言い回しは、価値提案に活かせる貴重なヒントになります。これからアプローチしたい潜在顧客の共感も呼びやすくなるため、調査で得られた印象的なフレーズはGoogleドキュメントなどに記録しておくと便利です。
さらに、競合他社の価値提案にも目を通しましょう。競合分析を行って商品やサービスを自社と比較するだけでなく、ニュースレターや公式サイトを通じてどのような価値提案をしているか把握します。ブランドアイデンティティやブランドボイス、顧客との関係性などを分析することで、自社の強みを際立たせるヒントが得られるはずです。
2. 自社の強みを具体的に考える
価値提案で大切なのは明確さです。どれほど魅力的な表現を使っても、内容が曖昧で伝わらなければ意味がありません。そのため価値提案には、製品やサービスの価値を顧客が簡単に理解できる具体性が求められます。
特にニッチ市場においては、対象となる顧客のニーズが非常に具体的なことが多いため、訴求するメッセージもそれに合わせて明確にする必要があります。
価値提案を作る際は、以下の問いに明確に答えているかを確認しましょう。
- 何を提供しているのか?
- 誰のための商品・サービスなのか?
- 顧客の悩みがどう改善されるのか?
- なぜ他社ではなく自社を選ぶべきなのか?
- その価値はいつ提供されるのか?
これらのポイントを2〜3文以内で端的に伝えることを目指しましょう。シンプルでわかりやすい価値提案は読者に納得感を与え、次のアクションにつなげやすくなります。
3. 客観性のあるメリットを強調する
効果的な価値提案を作るには、製品やサービスが実際にどのような価値をもたらすのか、どんな課題を解決するのかを客観的に整理し、それを言葉で表現することが求められます。
ここまでのステップで得られた顧客が望む価値、競合が提供している価値、自社の具体的な強みといった情報をもとに、顧客にとっての具体的なメリットを強調した価値提案を作成しましょう。
例えば、街中で「世界最高のコーヒー」といったサインを何度も見かけると、どれが本当なのか疑わしく感じてしまいます。これはウェブ上でも同様で、根拠のないキャッチコピーは、一時的な注目は集めても、信頼にはつながりません。
また、売り上げが伸び悩んでいる場合は、価値提案の内容が曖昧で伝わっていない可能性もあります。自分のプロダクトに対する思い入れが、客観性を失わせていないか、一度冷静に見直してみることも大切です。
こうした明確な価値提案は、売り上げの向上やブランディング強化だけでなく、マーケティング戦略全体の精度向上にも寄与します。
バリュープロポジション・キャンバスとは
バリュープロポジションキャンバス(価値提案キャンバス)とは、顧客のニーズとそれに応える自社商品やサービスの提供価値を分析し、可視化するためのフレームワークです。ビジネスコンサルタントのアレックス・オスターワルダー氏が著書『Value Proposition Design』の中で提唱しました。
このフレームワークは、顧客が解決したい課題であるジョブ、抱えている悩みや不満、得たいメリット(利得)を明確にすることを目的としています。

バリュープロポジション・キャンバスは、大きく2つの領域「顧客セグメント」と「提供価値」で構成されており、それぞれに3つの要素が含まれます。これらの要素を丁寧に分析することで、顧客のニーズに合致した価値提案を設計することが可能になります。
顧客セグメント
顧客セグメントでは、ターゲットとなる顧客の行動や心理、ニーズを以下の3つの観点から掘り下げます。
顧客のジョブ(Customer Jobs)
顧客のジョブとは、顧客が日常の中で「達成しようとしていること」や「解決したい課題」を指します。商品を購入する、社会的な役割を果たすといった行動が該当しますが、できるだけ具体的にイメージできると良いでしょう。
そのためには、まず顧客は誰なのかペルソナを明確にしてからジョブを考えるのが効果的です。また、ジョブには機能的・感情的・社会的な側面があり、それぞれを意識することも大切です。
顧客の悩み(Pains)
顧客の悩みは、顧客がジョブを遂行する過程で直面する不満や障害、リスクなどを意味します。例えば「価格が高い」「時間がかかる」などが含まれます。これらを明確にすることで、改善の余地が見えてきます。
顧客の悩みの根本原因まで掘り下げるには、アンケートなども有効です。
顧客の利得(Gains)
顧客の利得は、顧客が得たいと期待する成果や価値を指します。単なる機能面の利便性にとどまらず、「安心感がある」「周囲から評価される」「楽しい体験ができる」など、感情的・社会的な価値も含まれます。
顧客への提供価値
顧客への価値提供では、自社の製品やサービスが、顧客のニーズにどのように応えるかを以下の観点から整理します。
製品やサービス(Products & Services)
提供している商品、サービス、機能、コンテンツなどを列挙します。ここでは、あくまでも何を提供しているかをリストアップすることが目的です。
顧客の悩みを取り除くもの(Pain Relievers)
顧客が抱えるペイン(不満や障害)を、どのように解消または軽減するかを明確にします。例えば「操作が簡単」「すぐ届く」「信頼できるサポートがある」といった要素がこれに当たります。
顧客に利得をもたらすもの(Gain Creators)
顧客が期待する、あるいは予想を超えるメリットをどのように提供するかを表します。例としては「使うことで気分が上がる」「他者と差別化できる」「新たな価値観が得られる」などがあげられます。
価値提案のテンプレート
価値提案を1〜2行で的確にまとめるのは簡単ではありません。しかし、テンプレートを活用することで、伝えるべき要素を整理しながら効率的に構築することが可能です。
例えば「誰に」「何を」「なぜ提供するのか」をフレーム化したテンプレートを使えば、情報を漏らさず、端的かつ魅力的なメッセージを作ることができます。他にも、以下のようなテンプレートを使って価値提案を作成してみましょう。
顧客のメリットを伝える価値提案テンプレート
【顧客の願望】を叶える【形容詞】な【製品またはサービス】
例:自宅がカフェになるプロ仕様のコーヒーメーカー
課題解決を伝える価値提案テンプレート
【課題】のない【製品またはサービス】
例:ゴミ捨て不要の掃除機
こういったテンプレートは当てはめてそのまま使うのではなく、アイデアのブレインストーミングや構成の下書きとして使うことで、ターゲットの理解を深め、セールスピッチの精度を向上させることができます。
Shopifyにも無料テンプレート(英語)があるので、活用しましょう。

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価値提案の事例
ユニクロ

「LifeWear」というコンセプトのもと、あらゆる人が毎日快適に着られる服を手頃な価格で提供するユニクロは、「良い服を、誰にでも、毎日着られる価格で」という明快な価値提案によって、世界中の消費者から選ばれるグローバルブランドへと成長しています。
ユニクロのトレンドに左右されないシンプルなデザインは、幅広い年齢・性別の顧客に支持されており、生活に自然と溶け込む「ちょうどよさ」が価値の中心にあります。
メルカリ

「モノの循環を通じて、暮らしにゆとりと楽しさを生む」という価値提案をするフリマアプリのメルカリは、多様なライフスタイルにフィットし、フリマアプリ市場で圧倒的なシェアを築いています。
「スマホ一つで出品から発送まで完結できる」という手軽さが最大の魅力で、これにより、ユーザーは「もったいない」と思っていたアイテムを手放すことができ、買い手にとっても掘り出し物を見つけられるという喜びを提供します。
無印良品

無印良品は、「必要なものを、必要なかたちで。」という価値観を軸に、シンプルで機能的な商品を適正価格で提供しています。
派手なロゴや装飾を排し、素材選びから包装に至るまで無駄をそぎ落とした設計が特徴です。暮らしに調和するデザインと、長く使える品質へのこだわりは、使う人の価値観や暮らし方を尊重する姿勢の表れでもあります。また、環境や社会への配慮もブランドの柱であり、エシカル消費が求められる現代において、無印良品の価値提案はより強く共感を呼んでいます。
ニトリ

ニトリは「お、ねだん以上。」というキャッチコピーの通り、価格以上の品質・機能・デザインを提供するホームファニシングブランドです。家具から生活雑貨までを一貫して企画・製造・販売するSPA(製造小売)モデルを採用し、高品質・低価格を実現しています。
「一人暮らしを始める人」「家族の暮らしを整えたい人」など、幅広い層に向けて、コスパだけでなく「ちょうどいい暮らし」を提案しています。価格競争に陥らず、満足感を得られる暮らしを叶えるという価値提案が、長く多くの顧客に支持される理由となっています。
楽天

楽天は「買い物をするたびにポイントが貯まり、生活全体がお得になる」というエコシステムを構築した総合インターネットサービス企業です。ECプラットフォーム「楽天市場」を中心に、クレジットカード、モバイル、銀行、保険などを連携させた”楽天経済圏”を提供しています。ユーザーは1つのIDで生活インフラを統合的に管理でき、利用するほどにメリットが増えるという設計が最大の強みです。
「個人の生活に密着した、便利でお得な仕組みを提供する」という価値提案により、価格以外のベネフィットでユーザーを囲い込む戦略を実現しています。
まとめ
価値提案(バリュープロポジション)とは、顧客に対し、自社の商品やサービスがどのような価値を提供し、なぜ選ばれるべきかを明確に伝えるメッセージです。
顧客の課題やニーズを理解し、具体的なベネフィットと競合との差別化ポイントを伝えることが重要です。そのためには、顧客や競合を丁寧にリサーチし、自社の強みを客観的に定義することが大切になります。
価値提案のテンプレートやバリュープロポジションキャンバスを活用し、ユニクロやメルカリなどの事例も参考にしながら、有効な価値提案を作りましょう。
価値提案に関するよくある質問
価値提案とポジショニング・ステートメントの違いは?
価値提案は、独自の価値を顧客に向けてわかりやすく伝える短いメッセージで、ウェブサイトや広告などで実際に使われるのに対し、ポジショニング・ステートメントは、ブランドや製品の独自性を明確にし、マーケティング戦略の軸となる考え方を社内向けに整理した内部文書である点に違いがあります。ます。
価値提案の目的は?
価値提案の目的は、顧客に対して「自社の製品やサービスが、他社と比べてどのように優れており、自分にとってどんな価値があるのか」を明確に伝えることです。顧客は「なぜ自分はこの商品を選ぶべきなのか」を理解しやすくなり、購買や利用の意思決定につながります。
バリュープロポジションとバリュープロポジションキャンバスの違いは?
バリュープロポジションが自社独自の価値を表すものであるのに対し、バリュープロポジションキャンバスは、バリュープロポジションを的確に把握するためのフレームワークです。
バリュープロポジションキャンバスの使い方は?
バリュープロポジション・キャンバスは、顧客の悩みや望みを明確にし、それに合致する自社の提供価値を設計するために以下のようなステップで使いましょう。
- 顧客セグメントを定める
- 顧客のジョブ・悩み・望みを整理する
- 自社の製品・サービスとその価値を整理する
- 顧客のニーズと提供価値の一致を確認する
価値提案が失敗したらどうすればいい?
価値提案の失敗は、商品やサービスの自社独自のメリットを効果的に伝えられていない、顧客の心に響くメッセージが届いていないといったことを意味します。改めて価値提案の基本要素を見直し、「誰に・何を・なぜ届けるか」を具体的に再定義してみましょう。
日本の価値提案の成功事例は?
日本で価値提案を使って成功した事例には、ユニクロや無印良品、ニトリといった小売りから、メルカリや楽天といったサービスを提供する事業まで数多くあります。
バリューポジションキャンバスとは?
「バリューポジションキャンバス」という言葉は正式な用語としては存在しません。
正しくは「バリュープロポジション・キャンバス(Value Proposition Canvas)」で、顧客が本当に求めている価値を明確にし、それに対してどのような製品やサービスを提供すべきかを整理するためのフレームワークです。
文:Takumi Kitajima