「あなたの専門分野について、EC起業家にいちばん知ってほしいことは何ですか?」この質問を、世界的に有名なCRO(コンバージョン率最適化)と成長戦略のエキスパート19人に投げかけました。
ショーン・エリスやノア・ケイガンといった成長戦略の重鎮や、ジョアンナ・ウィーベやピープ・ラジャといったコンバージョン率最適化のレジェンドから、たくさんの回答が寄せられました。
トラフィック獲得にかける予算や時間を増やす前に、これらの専門家の意見を参考にしてください。コンバージョンを重視してサイトを最適化することで、トラフィックを増やさなくても収益を増やすことができます。
よく、最適化を考えるのはまだ早いなどと言われることがありますが、実際はいつ始めても早すぎるということはありません。では、世界屈指のエキスパートたちが、CROと成長戦略について知っておいてほしいと考えることを紹介します。
プロセス > 戦術
コンバージョン率の最適化と成長は、多くの場合、戦術の観点から語られます。
誰もが、10倍の成長をもたらす魔法のようなシンプルなテクニックを求めています。ある部分のボタンの文字を少し変えたり、別の部分の色を調整したり、なんて具合にです。
戦術や成長ハックは魅力的に見えるかもしれませんが、専門家が頼るのは体系的なプロセスです。なぜなら、ECの世界は状況に大きく左右されるからです。
たとえば、AmazonやBest Buyで効果のあった手法が、必ずしも自社の店舗でも通用するとは限りません。他社のソリューションをそのまま持ち込んでも、自社の課題が解決するわけではありません。
そのため、CXL Instituteのピープ・ラジャは、CROに不慣れな人に対して、体系的なプロセスに基づくことを推奨しています。
CXL Institute、ピープ・ラジャ
「CROに不慣れな人の多くは、コンバージョン率最適化とは戦術のリストやチェックリストのようなものだと考えがちです。確かにベストプラクティスは存在しますが、そこはあくまで出発点であり、ゴールではありません。」
「コンバージョン率最適化とは、リサーチと実験を通して成長を促進することです。この2つがCROの基幹となります。リサーチは訪問者が何をしているのか(あるいはしていないのか)を理解するのに役立ち、実験を通して、特定された課題に対する最適解を導き出すのです。」
このプロセスは人によって多少異なりますが、基本的な流れは次の通りです。
- 自社サイトの定性的・定量的なリサーチを実施し、問題点を洗い出す。
- リサーチ結果をもとに、テストや実験のアイデアを考案する。
- ICEスコアやPXL(CXLが開発したフレームワーク)といった優先順位付け方法を使用して、アイデアの順位を決定する。
- 最も優先度が高いテストまたは実験を開始する。
- テストまたは実験の結果を分析する。
- 結果を記録またはアーカイブする。
- 最新のテストや実験から得たインサイトをもとに、さらに効果的なテストや実験のアイデアを練る。
このプロセスは、インサイトと継続的な学びに重きを置いており、自社サイトに焦点を当てることができます。つまり、たとえば大手サイトとその顧客層と比較して、自社のストアと自社の顧客にとって何が効果的かを学習することになります。
戦術や成長ハックは状況を考慮しない場合が多いのに対し、体系的なプロセスはその場ごとの状況を考慮します。
コンバージョン率最適化のコア領域4つ
コンバージョン率を高めるためには、幅広い分野のスキルや特性が必要です。数年前、クレイグ・サリバンは、優れた最適化担当者の11の特性に関する意見を発表しました。そこには謙虚さから統計まで、あらゆる要素が含まれています。
CROと成長戦略の魅力は、多様なスキルと専門分野の組み合わせにあります。この記事では、以下の4つの主要分野におけるコンバージョン率最適化のヒントに焦点を当てます。
- コピーライティング
- 心理学
- テスト
- ユーザーエクスペリエンス(UX)
先へ進む前に、基本的なリールを抑えておきましょう。まず、コンバージョン率や成長戦略は、ビジネスの進め方にしっかりと組み込まれている必要があります。
GrowthHackersのショーン・エリスは、次のように説明しています。
GrowthHackers、ショーン・エリス
「もっと多くの人に知ってほしいのは、CROの理論自体は理解しやすいものの、実際には組織の慣性が働き、最も効果の高い機会に対して実験が行われにくいという点です。組織やチーム内の課題に対処しなければ、多くの人が期待通りのCROや成長の成果を得られないのです。」
最適化と成長がECストアやビジネスの柱として組み込まれていなければ、期待どおりの結果は得られません。あらゆることに実験的な視点で取り組むことが重要です。
実際、その実験的な考え方は、サイトだけではなく他の面にも広がるべきです。
PRWDのポール・ルークは、次のように説明しています。
PRWD、ポール・ルーク
「コンバージョン最適化は、企業を21世紀に導くための入口です。現代では、消費者の力がますます強くなっており、企業はこれを活用できる働き方にシフトする必要があります。」
「CROは、収益や各種KPIの向上、広告費の最適化に役立つだけでなく、ウェブサイトそのものをより精密にチューニングするプロセスです。私はかつて、CROを『企業の成長を最も促進する要素』と呼んでいたのですが、そのメッセージを世界に発信した当時は、お金のことにばかり焦点をあてていました。しかし、今ではこの言葉はお金よりもっと多くのことを含んでいます。」
「CROは、実験と顧客中心の考え方を企業の根幹に組み込むための第一歩となることが多いです。まずは、ウェブサイトのパーソナライゼーションから始まり、そこから他の部門の日常業務にも波及していきます。私たちは現在、製品開発の段階で実験的な考え方を持つ企業と仕事をしています。顧客に『共感』してもらうために、製品主導のアプローチではなく、段階的にプロダクトをリリースし、そのフィードバックを次のステップに組み込む形をとっています。」
「つまり、CROによる成長は単に売上を伸ばすだけではなく、ターゲットとなる顧客との建設的で有意義な対話を築くことであり、顧客中心の経営をすることであり、ひいてはビジネスの最適化へとつながるのです。」
「私たちが企業に推奨しているツールのひとつが、コンバージョン率最適化監査です。この監査で4つの柱(戦略+文化、ツール+テクノロジー、時に在+スキル、プロセス+手法)のスコア改善に取り組む企業は、同業他社よりも高い成長率を実現しています。」
ポールが言及するコンバージョン率最適化監査の4つの柱は次のとおりです。
- 戦略+文化:ビジネスの最適化へのアプローチ。
- ツール+テクノロジー:最適化プロセスで使用するツール。
- 人材+スキル:最適化プロセスを推進するための人材育成。
- プロセス+手法:実際の最適化プロセス。
なお、これら4つの柱はオンラインストアだけでなく、製品開発やカスタマーサポートなど、ビジネスのさまざまな側面に影響を与える可能性があります。
もうひとつ重要な点は、コンバージョン率や成長に注力するのは、いつであっても常に良いタイミングであるということです。トラフィックが増えてから最適化に取り組むのではなく、最初から両輪で動かすべきです。
Sway Copyのジョシュ・ガロファロは、トラフィック増加の前にCROに注力すべき理由を、次のように説明しています。
Sway Copy、ジョシュ・ガロファロ
「多くの企業が、穴の開いたバケツに水を注ぎ続けるように、無駄に多額の費用をかけています。現状では、オンラインストアへのトラフィックを集めているから売上が出ています。でも、さらに売上を伸ばすには、もっとトラフィックを集めるのが最善だと思っているのです。」
「しかし、必ずしもそうとは限りません。もしファネルの深い部分に問題があれば、まずそこを改善してから大量のトラフィックをファネルに流入させる(または両方を同時に行う)方が効率的です。」
「たとえば、取引メールをつい後回しにしていませんか? それとも、顧客が必ず開封するものだからこそ、丁寧に作り込んでいますか? メールは自分で決めたスケジュールに従って送信していますか? それとも、Customer.ioのようなツールを使って、各顧客のストア内での行動に基づいて送信されていますか? トップページや広告の文章にこだわりすぎていますか? それとも、購入に近づくにつれて文面を最適化していますか? チェックアウトのプロセスは複雑ですか? それとも、購入ができるだけ簡単になるように工夫していますか?」
「購入手続きに近いページやフローを整えることで、同じトラフィック量でも売上は増加し、トラフィックの増強時にはさらに大きな効果が期待できるのです。」
A/Bテストを正しく行うには、ある程度のトラフィックが必要なのは事実です(この点については後ほど詳しく述べます)。しかし、コンバージョン率最適化と成長は、単にテストだけで完結するものではありません。
訪問者が離脱してしまうランディングページに、ただトラフィックを送り続けるのは、一時的な応急処置に過ぎません。
CROを正しく実施すれば、トラフィックを増やさずともECストアの収益を向上させることが可能です。そして、後にトラフィックの拡大に取り組むとき、集めた訪問者はより価値あるものとなるでしょう。特に広告費をかけている場合は、非常に有利です。
1. コピーライティング
コピーライティングとは、説得力のある言葉で人の心を動かし販売を促進する「芸術」と「科学」の融合です。
Copy HackersやAirstoryのジョアンナ・ウィーブが、コピーライティングについて特に知っておいてほしいと考えるのは、そのプロセスがCROの他の分野と同様にデータに基づいているという点です。
Copy Hackers/Airstory、ジョアンナ・ウィーブ
「CROの他の分野と同様に、データに基づいたものであること。コンバージョンに強いコピーライターは、解析チームに質問を投げ、リサーチチームから提供される生データを精査し、UXチームとのワイヤーフレームに関する議論に参加し、リードするCRO担当者と共に仮説を検証します。」
「コピーライターは、ただ漠然と魅力的な言葉を考えるのではなく、顧客の声を反映した効果的なコピーを見つけ出し、ウェブページ、メール、そしてファネル全体に戦略的に配置していくのです。A/Bテストの結果に貪欲で、顧客がどのような行動をとるのかに強い好奇心を持っています。私たちの仕事は、単なる言葉の芸術ではなく、むしろ理論的な科学に近いものがあるのです。」
ジョシュも、コピーライティングには「書く」以上の作業が必要だと付け加えています。
Sway Copy、ジョシュ・ガロファロ
「『コピーライター』という言葉は、他のコピーライターや優秀なコピーライターを雇う経験のある人にとっては、多くの意味を持ちます。しかし、それ以外の人たちにとっては、実際の仕事内容を過小評価させてしまうのです。」
「コピーライターは単に文章を書いているだけと誤解されがちですが、実際には、商品を差別化し、顧客に響くメッセージを伝えるために、徹底したリサーチと分析が必要とされます。ウェブページに文字を並べるのは簡単ですが、本当に効果的なコピーを書くためには、どの言葉が最も響くのか、何が通じるのかを徹底的に調査する作業が不可欠なのです。」
「つまり、創作的な言葉遊びではなく、データとリサーチに基づく科学的な作業としてのコピーライティングが、ユーザーを説得し、購入へと導く鍵となるのです。」
Case Study Buddyのジョエル・クレトケも、顧客の声を正確に捉えるためのリサーチが不可欠だと強調しています。
Case Study Buddy、ジョエル・クレトケ
「効果的なコンバージョンコピーライティングを行うには、顧客の声やサイト内での実際の行動に関する徹底的な一次調査が欠かせません。もし、詳細なリサーチプランを伴わない提案をしてくる人がいたら、その人は単なる推測に基づいたコピーを提供しているに過ぎません。」
「また、コンバージョンのコピーライティングは文章そのものだけでなく、UXやその表示方法と深く結びついています。コピーとUX/デザインは必ず連携させなければ、各々が異なる方向へ逸れてしまうのです。」
Shopifyは、eコマースのためのコピーライティングに関する記事も掲載しています。その要点は次のとおりです。
- ターゲットとなる顧客層やセグメント、達成すべき目標、そして解明したい疑問を明確にする。
- 社内インタビュー、顧客インタビュー、アンケートなどによる定性的リサーチを実施する。
- リサーチ結果から共通するパターンや頻出するフレーズ、反論、製品のメリットや疑問点を文書化する。
- リサーチ結果に基づき、最も重要なメッセージの階層構造を定義し、ワイヤーフレームを作成する。
このプロセスは手間がかかりますが、サイト上の言葉は最も強力な販売ツールのひとつであるため、時間をかける価値は十分にあります。
さらに、コピーライティングやコンテンツマーケティングのためのコンバージョン率調査から得られる顧客インサイトは、FAQページやライブチャットの自動応答など他の領域にも活かすことが可能です。
調査は、文脈を定義するのにも役立ちます。訪問者は、顧客ライフサイクルのさまざまな段階において、どのようなコピーを期待しているのでしょうか?
Make Mention Mediaのジェン・ハヴィスは、以下のように説明しています。
Make Mention Media、ジェン・ハヴィス
「マーケティングコピーを作成する際に、ほとんどの人が考慮していないのは、全体のカスタマージャーニーにおける文脈です。このメールやウェブサイトのコピーが、カスタマージャーニーのどの部分に位置し、顧客の目標達成にどのように寄与するのかを考える必要があります。」
「こうした点を無視する企業は、多くの場合、期待通りの成果を出せず、挫折してしまうことになるのです。まずはインタビュー、アンケート、ユーザーテスト、ヒートマップなどを通して、顧客へのリサーチを徹底することが肝心です。」
「私はいつも、ファネル全体、つまりカスタマージャーニーの最初から最後までを最適化する視点を持つようアドバイスしています。これはコピーにおいても同様です。顧客がどこで何を必要としているのかを理解することが、成功の半分以上を占めるのです。」
リサーチ結果を活用して顧客ジャーニー全体を把握し、最適化することが重要です。たとえば、顧客の認知段階としてよく知られる 認知の5段階を考えてみてください。
- 認知していない:訪問者は問題や解決策、さらにはあなたの商品のことすら知らない。
- 問題認識:訪問者は問題があることを認識しているが、解決策があることを知らない。
- 解決策の認識:訪問者は自分望む結果を知っているが、あなたの商品がその答えになることに気づいていない。
- 商品認識:訪問者はあなたが何を売っているかは認識しているが、それが自分に適しているかは判断しかねている。
- より深い認識:訪問者はあなたのストアと商品を知っているが、具体的な情報を求めている。
いずれの段階においても、あなたのストアのコピーは、それぞれの段階にいる訪問者の関心を引き、行動を促すものでなければなりません。適切にアプローチできていない層のコンバージョン率は伸び悩むでしょう。
また、モチベーションや意欲のレベルは人それぞれ異なります。問題意識が強い人もいれば、そうでない人もいます。そのため、状況に応じて適切なコピーを書くためには、顧客の背景や状況を正しく理解する必要があります。
たとえば、適切な文脈であれば、ユーモアは強い説得力のある手段となります。Punchline Conversion Copywritingのリアンナ・パッチは、ユーモアの力について次のように主張します。
Punchline Conversion Copywriting、リアンナ・パッチ
「定性的な顧客リサーチの重要性、つまりコンバージョンコピーライティングの基礎については、皆さんもすでにご存知でしょう。しかし、ユーモアが戦略的ツールとして、顧客との関係構築、信頼、ロイヤリティ、好意獲得に役立つことも知っていただきたいのです。」
「多くの人はこれを理解しているものの、『うちのストアには合わない』という意見も聞かれます。しかし、ユーモアにはブランドにぴったりのスタイルが必ずあります(棺桶を売るような店は別ですが)。適切なタイミングで交えるジョークは、見込み顧客育成キャンペーンを一段と前進させる力を持っています。」
「たとえば、楽しい会話ができる店員と、ただ事務的に必要事項を伝える店員、あなたならどちらと話したいと思いますか?」
「私の好きなユーモアあふれるECサイトコピーの例としては、 Chubbiesがあります。」
もちろん、控えめなユーモアを取り入れているストアもたくさんあります。たとえば、 Moosejawや Woot.comなどです。
事務的な説明だけでは印象に残りません。適切にユーモアを交えることで、訪問者や顧客と信頼関係を築き、コンバージョン率の向上につながるのです。
2. 心理学
コンバージョン率最適化や成長戦略と聞くと、多くの人はテスト、統計、解析など定量的な側面を思い浮かべるでしょう。しかし、コピーライティングのケースで示したように、定性的な要素も非常に重要です。
Reforge.comのブライアン・バルフォアは、心理学を活用してコンバージョン率を向上させるためのヒントを提供しています。
Reforge.com、ブライアン・バルフォア
「多くの人は数字に注目するあまり、訪問者の心理、つまりなぜ彼らが特定の行動をとるのか、何が彼らを動機づけるのか、どのように報酬を与えるべきかを見落としがちです。定量面とこの心理面を組み合わせることが、非常に強力な戦略になります。」
「これは、コピーライティングのリサーチが役立つ部分でもあります。顧客が何を求め、どのように感じ、どのような動機で行動しているのかを理解すれば、コンバージョン率向上だけでなく、在庫管理、配送、価格設定、プロモーションなど多方面で賢明な判断ができるようになります。」
GetUplift.coのタリア・ウルフは、顧客を深く理解することの重要性を次のように語っています。
GetUplift.co、タリア・ウルフ
「マーケターの皆さんに理解してほしいのは、数字やどの専門分野を選ぶかではなく、真に顧客を理解し、その頭の中に入り込み、『顧客が求める体験』を生み出さなければ、望む結果は得られないということです。」
「結局のところ、顧客のニーズに応じて調整することこそが、コンバージョン率やビジネスの成長を実現する唯一の方法なのです。」
顧客の行動や心理を理解すれば、次のような心理的要素も活用してウェブサイトのコンバージョン率を向上させることができます。
- 認知バイアス:訪問者や顧客のあらゆる意思決定には、数多くのバイアスが影響を及ぼしています。これらをうまく活用することで、より効果的に説得することができます。
- 感情的説得:人間は極めて感情的な存在です。論理だけでなく、感情に訴えることで効果を発揮する場合があります。
- 一般的な説得術 :脳がどのように情報を処理し、意思決定し、選択肢を比較するのかを理解することは、強力な販売戦略を構築する上で非常に有益です。
このように、訪問者や顧客がどのように考えているかを理解するだけでなく、その知識と説得術を組み合わせることで、彼らに望む行動を取らせることがコンバージョン率最適化の核心となります。Web Artsのアンドレ・モリスは、次のように述べています。
Web Arts、アンドレ・モリス
「CROは単にウェブサイトの調整ではなく、顧客行動を変えるための手法であるということを、もっと多くの人に理解してもらいたいです。」
「よくある『ボタンを左にずらせば売上が上がる』というのは、仮説ではなく夢物語に過ぎません。良い仮説とは、なぜその変更が顧客の行動に影響を与えるのかを論理的に説明できるものであるべきです。」
つまり、顧客の行動と心理を理解した上で、行動を変えるために設計されたテストを実施することが重要です。たとえば、単にボタンの色を青から緑に変えるよりも、二次的なコールトゥアクションを削除して、本当に重要な「カートに追加」ボタンに訪問者の注意を集中させたほうが、実際の意味では大きな効果が期待できます。
心理学は、コピーライティングと同様に、初心者には単なる創造的作業に見えるかもしれませんが、実はデータに裏付けられたものです。そして、それが売上に直結するのです。
3. テスト
コピーやランディングページデザインなど、ウェブサイト上のさまざまな要素のテストは、ECサイトのコンバージョン率を向上させるうえで非常に有効です。しかし、FlowJoのティファニー・ダシルバは、テストに着手する前に、まずしっかりとしたマーケティング基盤を整えることを推奨しています。
FlowJo、ティファニー・ダシルバ
「CROや成長戦略は、SEO、PPC、メールマーケティングなどのしっかりとした戦略が固まってから始めるべきです。」
「まずは、サイトが正しくインデックスされるように技術面をチェックし、キーワードリサーチで新たなコンテンツの機会を見つけ、PPCキャンペーンでは効果的なランディングページや適切なキーワードセットして、最適な設定を整えてください。」
「そして、SEOとPPCキャンペーンが堅実なドリップメールキャンペーンと連動しているか確認します。」
「これらが整ったら、様々な戦略のテストを行い、少しずつ改善していくことが可能となります。多くの人は、『1回のテストで会社が100%成長する』と期待しますが、実は既に埋もれている大きな可能性があることに気づいていません。それを掘り起こすだけで良いのです。」
つまり、テストを始める前にしっかりとした基盤を作ることで、コンバージョンファネルの潜在的な問題点に気づくことができます。
次のことを自問してみてください。
- SEOはしっかり機能しているか。Googleに正しくインデックスされているか。
- 主要なキーワードの機会を見逃していないか。
- PPCキャンペーンすべてに効果的なランディングページが用意されているか。
- PPCキャンペーンの設定は徹底的に最適化されているか。
- すべてのSEOやPPCキャンペーンが、意味のあるドリップメールキャンペーンと連携しているか。
- メールの到達率はどうか。
- メールはアクションを促す内容になっているか。
- サイトはどのブラウザでも正しく表示されるか。
- どのデバイスでも快適に閲覧できるか。
A/Bテストを行う際は、オンラインのサンプルサイズ計算ツール(英語)を使って、あらかじめ必要なサンプルサイズを計算する必要があります。
たとえば、現在のコンバージョン率3%に対し最低10%の改善効果を検出するためには、バリエーションAとバリエーションBそれぞれに51,486人の訪問が必要です。
次に、たとえば5%の改善効果を検出しようとすると、さらに多くのトラフィックが必要となるでしょう。これは、検出したい効果が小さいほど、より大量のトラフィックが必要になるということを意味します。
これは、次の2つのことを意味します。
- すべての企業がテストを実施できる立場にあるわけではない。
- テストを実施できる企業ほど、貴重なトラフィックをあまり効果の薄いテストに費やしたくない。
強固な基盤を整えてからテストに臨むことで、最良の結果を引き出す確率が高まります。
十分なリサーチと基盤作りの後は、正式なテスト、即効性のある修正、あるいは気軽な実験といった形で実行に移すことが求められます。KlientBoostのジョナサン・デインは、次のように述べています。
KlientBoost、ジョナサン・デイン
「自分の専門知識にあまりロマンを抱くのはやめたほうがいいです。時間とスピードのバランスを取る必要があります。多くの場合、さらなるリサーチは成長にわずかな改善しかもたらさないので、実行に移し、結果を見ながら調整する方が重要です。」
「そして、最も伝えたいのは『優先順位付け』の大切さです。たとえば、ボトルネックになっている部分を先に直すべきであり、さもなければ、最もワクワクするアイデアに流されがちになります。ICE(影響力、確信度、実行容易性)といった手法を活用して、何から手をつけるべきかを決定してください。」
「また、売上に直結するものに焦点を合わせることも重要です。単にトラフィック、コンバージョン、売上の数値を追うのではなく、逆算して戦略を立てるべきです。」
Eighty-Eightのエリン・バリーは、パフォーマンス測定の重要性について、次のように述べています。
Eighty-Eight、エリン・バリー
「たとえデータに基づいて考えるマーケターでなくても、マーケティング活動の効果を測定する手段は必ず見つかります。たとえば、インフルエンサーキャンペーンでは、特定のプロモコードを付与したり、UTMコードを使って一意のリンクを生成したり、アフィリエイトプログラムを展開したりすることで、どのインフルエンサーがトラフィックや売上に貢献しているのかを把握することが可能です。」
「Facebook広告のようなキャンペーンであっても、計測する指標を用意して、今後のキャンペーンへの投資判断を下す資料とすべきです。」
売上に直結する指標を正確に測定することが重要です。表面的な指標に固執せず、お金に直結する部分を正しく評価してください。たとえば、メールの開封率などは大事ですが、実際の売上へのインパクトは限定的です。
また、アンドレ・モリスが注意を促す「確証バイアス」という認知バイアスにも気を付けましょう。
Web Arts、アンドレ・モリス
「実験結果のほとんどは、実は間違っているいうことを理解してください。A/Bテストでは、自分の仮説に都合の良い結果だけを求め、テストを早期に打ち切ってしまいがちです。これが『確証バイアス』だと心理学では言われています。テストのアイディアを出す人と、テストを終了する判断を下す人は分けるべきです。」
「たとえば、商品ページの変更でカートへの追加が増えると仮定してしまうと、結果を意図的に自分に都合良く解釈してしまう恐れがあります。そのため、テストは最低でも2回のビジネスサイクル、あるいはあらかじめ設定したサンプルサイズに達するまで継続することが重要です。また、テスト実施中に途中経過をチェックしない工夫も大切です。」
テストツールが「統計的有意性」に達したと表示しても、それだけでテスト終了を判断してはいけません。必ずしもテストの正当性を示すものではないからです。
最後に、HubSpotのアレックス・バーケットは、また別の認知バイアスである「ナラティブ・フォールシー」に注意するように呼びかけています。
HubSpot、アレックス・バーケット
「何かがうまくいった理由やうまくいかなかった理由を、はっきりと説明することはできません。後付けのストーリーで説明しようとするのは、単に事象を簡略化するための自己満足に過ぎません(これを『ナラティブの誤謬』と言います)。」
「たとえば、ある体験が成功した理由として『私たちの顧客は意思決定において確実性を求め、そのためにこのソーシャルプルーフが必要だった』と説明できても、それはまた『顧客の注意がページ上の重要な要素から逸れていたため、このバナーが適切な場所に注意を引いた』と解釈することも可能です。結局のところ大切なのは、テスト結果の解釈にとらわれず、プログラムの効率性やROIの向上に注力することです。」
自分自身に語るストーリーが、何が効果的で何がそうでないのかに影響を及ぼすのは事実です。自身も認知バイアスの影響を受けかねないため、注意深くテスト結果を判断する必要があります。
4. ユーザーエクスペリエンス(UX)
ストアのユーザーエクスペリエンス(UX)を改善するためには、ヒューリスティック分析(つまり、サイトの各ページを順にチェックし、各要素を評価する)が非常に有効です。
私が普段意識しているポイントは、次のとおりです。
- 動機:訪問者が行動する(またはしない)原因は何か?
- 摩擦:どこに障害や困難が生じているか?
- 気を散らす要素:重要なコールトゥアクションから注意を逸らしているものは何か?
- 関連性:ページ上の内容が訪問者にとって関連性や文脈を欠いていないか?
- 明確さ:情報が分かりづらかったり、複雑すぎたりしていないか?
UXは、前述のコピーライティング、心理学、テストなどの要素と密接に関連しています。そして、どの分野も同様に、顧客中心のアプローチが最も効果的です。Orbit Mediaのアンディ・クレストディナは、CRO向上のための重要なポイントを次のようにまとめています。
Orbit Media、アンディ・クレストディナ
「未解決の疑問はコンバージョンを妨げます。まずは、顧客が抱いている主要な疑問を把握し、それに対する回答をページ上に明確に提示することがCRO担当者の最初の任務です。以下は、顧客の主要な疑問の情報源として優先順位を高いものから順に並べたリストです。」
- 顧客と直接話す
- 顧客に対応する販売員から情報を得る
- チャットログの確認
- Google Analyticsのサイト内検索および検索キーワードのレポート
- キーフレーズのリサーチ
「上記のリストに基づき、疑問に対する回答を優先順位順にページに反映させ、信頼できる証拠で裏打ちし、魅力的で目立つコールツーアクションを設置してください。」
「コンバージョンとは、顧客への共感と明確な情報提供にかかっています。具体的な情報、確固たる証拠、そして明瞭なコールツーアクションが必要です!」
このように、コピーライティングのための定性的なリサーチのほか、UXにおいても顧客にとって分かりやすく役立つ情報設計を徹底することが、全体としてのコンバージョン率の向上につながります。
商品やランディングページが訪問者にどのような価値を提供し、最も重要な行動を促しているのかを明確にすることが極めて重要です。1つのページに1つの目的が目標です。それ以外は、訪問者にとっての不要な分散要因となってしまいます。
価値を伝える際、GIMME GROWTHのドミニク・コリエルは、まず「訪問者にとってのメリット」を自問することを提案しています。
GIMME GROWTH、ドミニク・コリエル
「自分(訪問者)にとって何のメリットがあるのかを、行動を促す前にしっかりと考えることが大切です。」
「たとえば『友達にシェアする』といった機能を設置する場合、そのシェアする価値が明確でなければ意味がありません。シェアすることでどんなメリットが得られるのか、何か特別な情報や報酬があるのか。そういった価値提案がなければ、シェアボタンを設置しないという選択肢も考えられるでしょう。」
「あるいは、シェアメッセージに可愛い猫の画像を添えるなど、シェアが魅力的になる工夫も考えられます。いずれの場合も、訪問者にとってシェアする価値があるものでなければならないのです。」
この考え方はシェアボタンに留まらず、全てのページ要素に当てはまります。すべての要素が訪問者にとって価値あるものでなければなりません。
また、UXにおいては長年にわたり様々なベストプラクティスが提唱されてきました。うまく機能するものもあれば、そうでないものもあります。
例えば、Sumoのノア・カガンは、特にファーストビュー(ページ上部)の重要性について次のように述べています。
Sumo、ノア・カガン
「ウェブサイトのファーストビューは、まさにプライムロケーション。高価なストックフォトよりも、明確なCTAでリードや売上を獲得することに集中してください。加えて、CTAの最適化テストを継続的に行い、成果を改善していくことが重要です。」
※「ファーストビュー」とは、ユーザーがページをスクロールしなくても見ることができる部分のことです。新聞時代からの名残ですが、今なおその重要性は揺るぎません。
このベストプラクティスは、ランディングページ、価格ページ、チェックアウトページなど、ECサイトの主要なページにとって極めて重要です。 Nielsen Norman Groupの最近の調査では、ファーストビューとそれ以降の情報の閲覧行動に84%の差があるという結果が出ています。とはいえ、スマートフォンの普及によりファーストビューの概念も変化してきています。
つまり、重要なのはただベストプラクティスに従うのではなく、その背景にある「なぜそうするのか」という理由を理解することです。
例えば、「訪問者はスクロールしない」という認識がありますが、実際には最近の調査では、モバイルユーザーの11%がページ読み込み後4秒以内にスクロールを開始しているというデータもあります。人々はスクロールします―それは90年代の話ではありません。実際、ファーストビュー以降のCTAにも十分な効果があるのです。なぜなら、ファーストビューのコンテンツが、今後のコンテンツやクオリティの期待感を設定しているからです。
DigitalMarketerのジャスティン・ロンドーも、ベストプラクティスについて次のように語っています。
DigitalMarketer、ジャスティン・ロンドー
「これは少々の余地があるかもしれませんが、CROや成長分野の内外の人々には、ベストプラクティスがそれほど悪いものではなく、むしろ『共通の実践』として活用できることを認めてほしいと願っています。」
「もちろん、無批判にそれだけに頼るのは良くありませんが、すべてをテストしようとするには時間がかかりすぎるのです。ほとんどの企業では、年間に実施できるテストの数は限られています。すべてをテストしていると、結局何も進まなくなってしまうのです。ですから、スタート地点として、ベストプラクティスという確固たる土台が必要なのです。」
「ベストプラクティスという言葉は、実際には『一般的な慣行」を意味しています。馴染みのあるものは、訪問者にとっても使いやすく、安心感を与えるのです。もちろん、マーケティングを一律な方法で行うべきではありません。まずはベースラインを構築し、その上で実際に意味のあるテストやプロセスで、アウトライヤーを見極めるのです。結局、ベストプラクティスは、あなたが思っているほど悪いものではありません。」
この理由を理解し、時代の変化に合わせて柔軟に利用すれば、トラフィックが少ない段階でも大いに役立ちます。
今日から実践できるコンバージョン率最適化のヒント
コピーライティング、心理学、テスト、そしてUXといった領域にわたる専門家たちの知見により、成長ハックや単なる戦術を超え、実際に成果を出す体系的なプロセスが明らかになりました。
そして、サイトやランディングページの最適化を早期に行い、「穴の空いたバケツ」に永遠に頼らないことが重要だと分かったはずです。まだコンバージョン最適化の表面しか触れていませんが、今後も新たな発見があることでしょう。
これらの教訓を自社に取り入れ、改善と学びを繰り返してください。忘れないでほしいのは、コンバージョン率最適化や成長戦略は、これから事業を成長させようとするあなたのようなEC起業家にも、十分に役立つということです。
コンバージョン率最適化のヒントに関するよくある質問
コンバージョン率最適化の主な要素は何ですか?
- コピーライティング
- 心理学
- テスト
- ユーザー体験(UX)
コンバージョン率最適化において、見落とされがちな部分は何ですか?
組織的な惰性により、多くの企業が最も効果的なCROの機会を模索することができません。チーム全体の合意がなければ、望んだ結果は得られにくいのです。
コンバージョン最適化実験はどのくらいの期間実施すべきですか?
コンバージョン最適化のテストは、最低でも2回のビジネスサイクル、あるいは、あらかじめ計算したサンプル数に達するまで実施するべきです。