スマホが普及した今、人々はいつでもどこでも商品やサービスの情報を得られるようになりました。実店舗や通販サイトで商品を購入するだけでなく、アプリで購入したり、SNSで新しい商品に出会ったりと、購買行動も多様化しています。
このように販売チャネルが多様化している現在、オムニチャネルは当たり前のものと感じている消費者も多くなっています。
野村総合研究所が発表した「ITナビゲーター2021年版」によると、2019年時点でのBtoC EC(B2C EC)の市場規模は19兆5000億円、オムニチャネルコマース市場は55兆円で、2026年にはEC市場は29兆4000億円、オムニチャネルコマース市場は80兆9000億円に達すると予測され、オムニチャネルの導入はビジネスを成功させる上で欠かせないものとなってきています。
そこでこの記事では、消費者の要望も市場規模も大きくなってきているオムニチャネルマーケティングについて、仕組みや構築方法、最新トレンドも含めて紹介します。
オムニチャネルマーケティングとは

オムニチャネルマーケティングとは、複数の販売チャネル(オンラインストア、実店舗、モバイルアプリ、SNSなど)を統合し、シームレスな顧客体験を提供するマーケティング手法です。
シームレスな顧客体験とは、すべてのチャネルで商品、価格、キャンペーンに一貫性があることや、決済や商品受け取りなどがECサイトと実店舗で融合されていることなどです。
オムニチャネルマーケティングはマルチチャネルマーケティングと混合されがちですが、オムニチャネルマーケティングは、消費者を中心に据え、顧客の行動やニーズに基づいて定期的に更新され、適切なタイミングで適切な情報を提供することで、スムーズな顧客体験を実現します。
オムニチャネルマーケティングの仕組み

SAB(Strategic Advisor Boad)(英語)の調査によると、企業とユーザーのタッチポイントは、過去5年で2倍以上に増えています。ユーザーはいつどこにいても、シームレスな購入体験を望んでいます。
オムニチャネルマーケティングは、データの収集から始まります。例えば、ブランドのSNS投稿を見てアカウントをフォローしたユーザーは、そのブランドの潜在的な顧客として認識され、そのユーザーが実店舗の近くに来たタイミングでスマホにプッシュ通知を送るなど、収集したデータをもとに個別のマーケティング戦略を取りますす。
また、Facebook広告で関連商品を表示したり、カゴ落ちした顧客にターゲットを絞ってメールマーケティングを行ったりと、ユーザーデータを活用することでエンゲージメントを高めることができます。
オムニチャネルとマルチチャネルの違い

オムニチャネルマーケティングとマルチチャネルマーケティングの違いは、マルチチャネルは各販売チャネルが独立して機能しているのに対して、オムニチャネルは、すべての販売チャネルとタッチポイントが連携され、消費者を中心として展開されているという点です。
この連携により、消費者はどこからでも簡単に欲しい情報にアクセスできたり、シームレスな購入体験ができたりします。また、消費者を中心として展開されていることにより、好みや位置情報などをもとに最適化されたメッセージが消費者に届けられたりします。オムニチャネルマーケティングは、企業の都合ではなく、ユーザーのニーズに合わせてアップデートされる、極めてパーソナライズされたマーケティング方法です。
オムニチャネルマーケティングの利点

ブランド認知度の向上
オムニチャネルマーケティングを行うことで、ブランド認知度を高めることができます。
複数のチャネルを統合することでタッチポイントが増えることをはじめとし、ブランドイメージに一貫性を持たせること、利便性の高いサービスでリピート率を上げること、そして、それぞれの顧客のニーズやタイミングに合ったパーソナライズされたアプローチをとることができるため、顧客との接点が増え満足度が高まります。それにより、オムニチャネルマーケティングを行っていない競合他社と差別化できるでしょう。
販売の機会を逃さない
すべての販売チャネルを統合管理するオムニチャネルマーケティングの利点のひとつは、販売のチャンスを逃さずに済むことです。
スマホを使いこなす現代のユーザーは、実店舗で商品を見つけて購入する、アプリで商品を見つけて購入する、といった直線的な購買行動だけではなく、アプリで見つけた商品を実店舗で購入する、またその逆など、ひとつの販売チャネルにとどまらない購買行動をとります。
SALSIFY(英語)の消費者調査によると、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツの消費者は、日々11か所以上のタッチポイントに触れています。購入時の体験が好印象となる要因の80%(英語)は、利便性、店員の知識、親切な接客であり、43%の消費者がより便利なサービスには高い料金を支払ってもいいと回答しています。つまり、今日の消費者は今までになく利便性を求めているということです。
そのため、オムニチャネルマーケティングを取り入れることで、利便性の高い購買体験の提供が可能になり、売り上げにつなげることができます。
リピート客が増える
オムニチャネルマーケティングを行って既存顧客のロイヤリティを高めることで、売り上げに直結するリピート客になってもらうことができます。
ブランドの総顧客人数に対してのリピート客が占める割合は21%(英語)で、年間総売上にいたってはリピート客の購入金額が占める割合は平均して44%にも上ります。さらに、Mckinsey(マッキンゼー)(英語)の調査によると、オムニチャネルを利用する顧客は、ひとつのチャネルだけを利用する顧客よりも1.7倍頻繁に購入し、消費額もより高い傾向にあります。
このとき、企業側に都合のいいチャネルではなく、顧客がすでに使い慣れているチャネルに資金を投入してオムニチャネルマーケティングを実践するようにしましょう。
オムニチャネルマーケティングの構築方法

1. カスタマージャーニーマップを作成する
オムニチャネルマーケティングを行うためには、まずカスタマージャーニーマップを作成します。カスタマージャーニーマップを作成することで、購買行動の起点や停滞したところ、購買に至った点などが一目瞭然になります。マップ作成の根拠となるデータは、Eコマース分析やファネル分析、既存顧客へのアンケートなどで得ることができます。
知っておきたいのは、ターゲット層がどの販売チャネルで購入に至るかだけではありません。各段階でユーザーが直面している課題や感情、どんなときに購入をためらうのか、カスタマージャーニーの最初のステップは何なのか、最終的に購入を決断させるのは何なのかを知り、購買行動の全体像を捉えるべきです。
また、カスタマージャーニーはターゲット層によって異なります。年齢や性別、ライフスタイルが異なれば、悩みや日常的に利用するメディア、休日に訪れる場所なども変わってきます。「東京都在住40代の会社員男性」「子育ての合間にリモートワークをしている20代女性」など、顧客の特性を分類し、それぞれのカスタマージャーニーマップを作成しましょう。
2. オムニチャネルマーケティングを行うチャネルを決める
カスタマージャーニーマップは、オムニチャネルマーケティングを行うチャネルを決定する際に、最も重要な参考資料ですが、ユーザーに適切なメッセージを届けるには、各チャネルの強みも考慮に入れましょう。
- ソーシャルコマース:SNSの投稿からユーザーを直接商品ページに誘導することができます。ユーザーはTikTok(ティックトック)、Facebook(フェイスブック)、Instagram(インスタグラム)で魅力的な商品を見つけたら、直線的な流れで購入することができます。
- アプリ:スマホは強力なショッピングツールです。独自のアプリを構築して、アプリ内で販売を行うことができます。
- メールマーケティングとSMSマーケティング:各チャネルでユーザーのメールアドレスと電話番号を獲得し、メールやSMSで潜在顧客に効果的なメッセージを送信することで、購入ページへと誘導できます。
- 実店舗での体験:リピート客などに特典を提供するロイヤリティプログラムやスタンド一体型ディスプレイで情報を提供するデジタルキオスク、また店舗で購入した商品を自宅まで配送するサービスなどは、どれもブランドや小売業者が顧客と直接関わることができる大切な機会です。
3. メッセージに一貫性を持たせる
ブランドアイデンティティを確立し、ユーザーに届けるメッセージに一貫性をもたせます。目指すのは、ユーザーがオムニチャネルマーケティングに触れたときに、そのブランドが提供しているものが明確で、何が強みなのか、ユーザーの課題や目標の解決策として、なぜその商品を検討すべきかが伝わることです。
次のような事項を考慮して、ブランドのメッセージ戦略を練りましょう。
- ブランドポジショニング:競合他社と比較して、自社商品の強みを明確にしましょう。
- ブランドパーソナリティ:ブランドを人に例えるなら、どんな性格や特徴かを考え、その人格的特性をもとにブランドパーソナリティを築きましょう。
- 視覚的な要素:ブランドのアイデンティティにふさわしい配色、文字のフォント、写真はどのようなものかを吟味し、使用します。
- ブランドの価値と使命:ブランドの歴史や創業者の想いを語るブランドストーリー、そして、どのような価値や体験を提供するブランドを目指すかというゴール、それらの要素をもとにして、ブランドの全体像を組み立てましょう。
また、ユーザーがどのチャネルやタッチポイントにいるかによって、伝える内容を調整する必要があります。例えば、コーヒーブランドであれば、メルマガに登録されているユーザーは、SNSのフォロワーと比べると、コーヒーの少し専門的な知識に惹きつけられるかもしれません。どのチャネルにも共通して言えるのは、継続的にメッセージを届けること、Z世代の心をつかむという課題があることです。
4. 適切なソフトウェアを取り入れる
効果的なオムニチャネルマーケティングを行うには、ユーザーの行動や情報に基づいて、ユーザーを分類できるソフトウェアを利用しましょう。ブランドがどういった商品を取り扱っているのかを全く知らないユーザーに、Facebook広告を頻繁に表示するようなことは非効率です。アパレルブランドであれば、すでにホームページを閲覧し、Tシャツのページを訪問した履歴があるユーザー、そしてそのユーザーと類似性のある層にリターゲティング広告を配信すると効果的です。
Shopifyは、複数の販売チャネルにわたって顧客データを収集する機能を備えています。さまざまなチャネルをECサイトと統合し、オムニチャネルマーケティングを行うためのアプリは、次のようなものがあります。
オムニチャネルマーケティングの高度なツールのひとつは、ユーザーの現在地情報をもとにプッシュ通知や広告配信を行うものです。このようなツールを利用すれば、初めて実店舗を訪れている顧客に、初来店用の広告を配信するというようなジオターゲティング広告を行えます。
スマホのGPSの位置情報をもとに広告を配信するには、ユーザーが同意する必要がありますが、店舗でWi-Fiを提供する際や、ユーザーがアプリをダウンロードする際に同意を得ることができます。
5. 成果を分析する
成果を分析するには、まず販売チャネルごとのデータを収集することです。収集するデータには、トラフィック、サイト上での行動、ユーザー情報、購入履歴、検索履歴などが含まれます。また、実店舗でベストセラーの商品が、オンラインでもベストセラーになるとは限らず、各販売チャネルの特徴により結果や成果が異なります。このようなことからも、販売チャネルごとのデータ収集及び分析が必要です。
各販売チャネルのコンバージョンや売り上げに対しての貢献度を測定することを、オムニチャネルアトリビューションといいます。オムニチャネルマーケティングのデータ収集・測定では、多くの企業は次のような方法をとっています。
- Cookie、タグ、ユーザーID、UTMコードの使用
- コンバージョントラッキングとピクセルの設定(Metaピクセル、Google広告のコンバージョントラッキングなど)
- 顧客関係管理(CRM)とその他のマーケティング分析プラットフォームの統合
オムニチャネルアトリビューションの最適な方法は、効果的なツールを利用することです。カスタマージャーニーを包括的に捉え、さまざまな手法の成果をトラッキングし、データを整理分析してグラフや報告書としてまとめることができるツールを利用しましょう。Googleアナリティクス、Metaピクセル、Google広告は、あらゆるチャネルからのデータを収集し、Shopifyの売り上げやコンバージョンデータと同期させることができます。これにより、オムニチャネルマーケティングがユーザーの行動にどのように作用したのかを把握することができます。
有能なツールが提供するレポートをもとに考察することで、次の戦略に活かすことができ、オムニチャネルマーケティングの投資利益率(ROI)を高めることができます。
オムニチャネルマーケティングの最新トレンド
1. バーコードスキャンでECサイトへ誘導
ユニクロのアプリでは、商品タグに印刷されているバーコードをスキャンすることで商品を検索できます。例えば、気に入った服をもう一着欲しいときなど、その服の商品タグを持っていれば、アプリでスキャンすることで、オンラインストアの在庫確認はもちろん、店舗の在庫確認、再入荷通知の登録もできます。

2. QRコードから動画コンテンツ+ECサイトへ誘導
URBAN RESEARCH(アーバンリサーチ)では、チラシやカタログ、店頭ポスターにあるQRコードを読み取ると、商品紹介動画にアクセスできます。動画が終了すると、スタッフによるコーディネートや販売ページに移動して、直接購入できるように設計されています。

3. アプリで顧客情報収集+フリーギフトで店舗へ誘導
西松屋は、アプリで顧客情報を収集し、クーポンを配布して店頭でプレゼントを配布することで、新規顧客の獲得と実店舗の利用を促進しました。アプリをダウンロードして新規会員登録をした妊婦に特典クーポンを配布し、母子手帳と共に店頭で提示すると、プレゼントを受け取ることができるという仕組みです。
このようなオンラインからオフラインに誘導するO2O(online-to-offline、オートゥーオー)の手法も増加しています。
4. 診断コンテンツでデータを収集
ENOTECA(エノテカ)では、ECサイトでワインタイプ診断を提供しています。いくつかの質問に答えて、診断結果として好みのワインタイプが表示されると、その下にテイスティングイベントの情報と予約のリンクが出てきます。予約したユーザーの好みとメールアドレスなどの情報を収集することができます。

5. EC事業者が実店舗を出店
Brideme(ブライドミー)は、インスタグラム発のブライダルアクセサリーのブランドで、ポップアップストアを複数展開しています。商品を試せることや接客の効果もあり、ECサイトと比較してポップアップストアでの客単価は1.5倍になっています。実店舗を持つ効果はECサイトにも反映され、ポップアップストアを展開するようになってから売り上げが伸びています。
まとめ
オムニチャネルマーケティングとは、ユーザーとつながるすべてのチャネルを統合・連携させる顧客中心のマーケティング手法です。
スマホの普及とテクノロジーの進歩により、かつてないほど利便性への要求が高まっています。数多く存在するすべてのチャネルとタッチポイントを連携させて、高い利便性を提供することが、企業にとって大きな競争力となります。オムニチャネルマーケティングを効果的に行うには、データ収集と分析、ツールの活用、顧客に合わせた戦略が欠かせません。
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よくある質問
オムニチャネルマーケティングは効果的?
オムニチャネルマーケティングは効果的です。スマホを使いこなす今日のユーザーは、利便性を求めています。オムニチャネルマーケティングに取り組み、高い利便性を提供することは、ブランドの認知度向上につながります。
オムニチャネルマーケティングを行う上で大切なことは?
オムニチャネルマーケティングを行う上で大切なことは、まず、ユーザーについて知ることです。カスタマージャーニーを把握し、それぞれの段階でユーザーがどういったことを考えているかを理解し、適切なメッセージを届けること、そしてメッセージを日々アップデートして、継続的に届けることが重要です。
オムニチャネルマーケティングとマルチチャネルマーケティングの違いは?
オムニチャネルマーケティングとマルチチャネルマーケティングの違いは、マルチチャネルは、各販売チャネルが独立して機能しているのに対して、オムニチャネルは、個人に合った最適な情報やサービスを提供するために、すべての販売チャネルとタッチポイントが統合連携されているという点です。
文:Kyoko Kitamura