アメリカの売上税は州ごとに税率や課税ルールが異なり、EC事業者にも対応が求められます。売上税を誤って請求したり、納付を怠ったりすると罰則を受けることもあるため、注意が必要です。
とはいえ、どの州で課税義務が発生するかを見極めるのはそれほど難しくありません。Shopify Taxのようなツールを使えば、小規模事業者でも効率的に対応できます。
本記事では、アメリカの売上税の仕組みや日本の消費税との違い、そして越境ECにおける課税の考え方まで、海外販売に役立つ情報をわかりやすく解説します。
売上税とは?

アメリカの売上税とは、商品が売買される際に、購入者に課せられる税のことです。州政府が管轄であり、連邦政府からは課せられません。
課税対象商品や非課税商品、すべての売上税率は各州や地方自治体が自由に決定し、税率は0~7.25%と州によって異なります。商品やサービスを提供する場合、購入者から売上税を徴収し、州や地方自治体の当局に申告、納付します。
売上税を徴収・納付する義務があるかどうかは、その州との物理的または経済的な「ネクサス(関連性)」があるかどうかで判断されます。
Shopifyの売上税リファレンスページでは、各州の税率や徴収ルール、ネクサスの条件などを確認できます。
アメリカの売上税と日本の消費税の違い

アメリカの売上税と日本の消費税は、いずれも消費者が負担する間接税ですが、仕組みに大きな違いがあります。
日本の消費税は国が一律の税率で課税し、事業者間取引にも課税される付加価値税(VAT)型です。一方、アメリカでは連邦政府は課税せず、各州や地方自治体が独自に売上税を設定し、最終的な消費者への販売時のみに課税される方式を採用しています。
また、アメリカでは州によって食品や衣類が非課税となることもあるため、商品を販売する際は、販売先の州ごとの税率や課税対象を個別に確認し、適切に対応する必要があります。
アメリカで売上税が課される条件

事業者が消費者から売上税を徴収する必要があるのは、その州に重要な事業拠点があるという条件を満たした場合だけです。このような、課税を義務付けるための「関連性」を、売上税の「ネクサス」と呼びます。
ほとんどの製品やサービスは売上税の対象となりますが、州によっては特定の商品やサービスが非課税扱いになったり、異なる税率が適用されたりする場合があります。
オンライン販売業者の売上税の徴収・納付義務
アメリカでは、オンライン販売を行う事業者も、特定の州との間にネクサスがある場合には、その州で売上税を徴収・納付する義務があります。条件を満たしていれば、その州でのオンライン注文に対して売上税を徴収しなければなりません。
徴収方法には商品価格にあらかじめ売上税を含める方法と、チェックアウト時に売上税を別途加算する方法の二種類があります。
どちらの方法にもそれぞれメリットとデメリットがあります。チェックアウト時に別途加算する方式では、購入直前に想定外の金額が表示されることで、いわゆるカゴ落ちの大きな要因になることがあります。
一方で、価格に売上税を含めると購入者にとっては分かりやすくなるものの、表示価格が高く見えてしまい、価格で勝負する業態では不利に働く場合もあります。
売上税の徴収が義務付けられている場合は、徴収した税金の金額を正確に記録・管理し、売上税の申告書を州当局に提出する義務があります。
売上税の徴収・申告方法

アメリカで売上税の納付義務を遵守するためには、以下のステップを順に踏んでいく必要があります。
1. どの州にネクサスがあるかを確認する
ネクサスは、ある州において一定の事業活動を行っていると見なされる条件を満たした場合に成立します。以前は「州内にオフィスや倉庫などの物理的な拠点があること」がネクサス成立の基本的な要件とされていました。
しかし、2018年の「サウスダコタ州 対 Wayfair裁判」以降は、物理的または経済的な形で拠点を持つすべての販売事業者に対し、該当する州への売上税の徴収・納付義務が課されるようになりました。
物理的ネクサス(Physical Nexus)
物理的ネクサスが成立する条件は州によって異なりますが、以下のようなケースが該当する可能性があります。
- 州内にオフィスを構えている
- 州内に居住または出張している従業員がいる
- 州内に倉庫がある
- 州内に物流拠点を有している
- 州内に第三者の提携先がいる
- 州内に商品を保管している在庫拠点がある
- 州内で展示会や即売会などの一時的な営業活動を行っている
経済的ネクサス(Economic Nexus)
経済的ネクサスとは、ある州で一定額以上の売上や取引件数に達した場合に成立するネクサスです。
例えば、イリノイ州では、過去12か月間に売上高が10万ドル以上または200件以上の取引がある場合に、経済的ネクサスが成立すると見なされます。テキサス州では、過去12か月間の州内売上が50万ドルを超えた場合に経済的拠点があると判断されます。
自社がどの州で物理的または経済的拠点を持っている可能性があるのかは、その州の税務当局のガイドラインで確認できます。
Shopifyで「Shopify Tax」を利用すると、管理画面の「Settings(設定)」>「Taxes and duties(諸税と関税)」>「United States(アメリカ)」>「Manage tax liability(税務管理)」でネクサスが成立している可能性のある州を確認できます。一定の条件を満たした際に自動で通知を受け取れるように設定することも可能です。
売上税の課税方式
売上税の課税方式には主に2つあります。
- 発送元課税(Origin Sourcing):発送元課税は、販売者の所在地を基準に課税される方式で、発送元と顧客が同一州内にいる場合に適用されます。例えば、テキサス州内の倉庫から同州内の顧客に商品を発送する場合、その倉庫の所在地に基づく税率が適用されます。つまり、出荷拠点がある市や郡の税率に準拠して売上税を計算する必要があります。
- 仕向地課税(Destination Sourcing):仕向地課税は、顧客の所在地を基準とする方式で、オンライン販売では一般的です。例えば、テキサス州外からテキサス州内の顧客に商品を発送した場合、受取人が居住する地域の税率が適用されます。
ほとんどの州がこの仕向地課税方式を採用していますが、一部の州では発送元課税や両者を組み合わせた混合型課税方式を採用していることもあります。そのため、自社が販売を行う州ごとの課税方式を事前に確認しておくことが重要です。
2. 販売している商品が課税対象かを確認する
小売業者が取り扱っているような商品も含むほとんどの有形の動産は、原則として売上税の対象になります。ただし、中には売上税が免除されたり、異なる税率が適用されたりする商品も存在します。
非課税となる可能性がある品目には、以下のようなものがあります。
これらの品目が課税対象かどうかは、州ごとの税法によって異なります。例えば、ミネソタ州やニューヨーク州では特定の種類の衣料品が非課税とみなされていますが、それがすべての州に当てはまるわけではなく、同じ州内でも衣料品の種類によって課税の取り扱いが異なることもあります。
Shopify Taxを使用すれば、各商品に適したカテゴリが提案され、それを確認・修正・承認することで、適切な売上税率の適用が可能になります。新たに商品をストアに追加する際には、正確な売上税率が自動で適用され、常に最新の状態に保たれます。
販売している商品が非課税に該当するかもしれないと思った場合は、各州の税務当局のガイドラインを確認するか、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
3. 該当の州で売上税許可証を取得する
ネクサスのある州では、売上税を徴収する前に「売上税許可証」の取得が義務付けられています。
申請は各州の税務当局のウェブサイトや電話で可能で、多くの州では無料ですが、一部では10~100ドルの手数料がかかる場合もあります。申請方法を調べるには「apply for sales tax permit + 州名」で検索すると最新情報を確認できます。
許可証の登録後は、州から申告頻度や納付スケジュールが通知され、申告は月次・四半期・年次などのパターンで行われます。特に年次申告では1月が期限とされることが多くなっています。
なお、許可証を取得せずに売上税を徴収するのは多くの州で違法とされ、罰則の対象となるため、注意が必要です。
4. Shopifyで売上税徴収の設定を行う
売上税のネクサスがある州で登録が完了したら、Shopifyで作成したオンラインストアやその他の販売チャネルで売上税を徴収するための設定を行う必要があります。
Shopifyでは、ネクサスのある州に対する売上税の自動徴収設定が可能です。詳細な設定手順については、Shopifyヘルプセンターをご覧ください。
複数の販売チャネルで販売している場合、ネクサスがある州の購入者からは、すべてのチャネルで売上税を徴収する必要があります。
5. 売上税の報告書を作成する
売上税の申告期限が近づいてきたら、ネクサスのあるすべての州で、購入者からどれだけの売上税を徴収したかを把握する必要があります。
会計報告義務の詳細レベルは州によって異なりますが、多くの州では、州内の購入者から徴収した売上税を、郡、市、地区などの地域区分ごとに細かく報告することが義務づけられています。
Shopify Taxの売上税レポート作成ツールには、売上税申告の準備に必要なものがすべて揃っています。このレポートには、州・郡・地域区分ごとの売上総額と課税対象売上の内訳が記載されており、各項目には正確な報告用コードが付されています。また、用途に合わせてレポートをカスタマイズすることも可能です。例えば、列を非表示にしたり、配送先や期間でデータを絞り込んだりすることができます。
6. 売上税を申告する
最後のステップは、ネクサスがある各州に対して、購入者から徴収した売上税を申告することです。
申告の方法や期限は州ごとに異なるため、各州の税務当局に確認する必要があります。多くの州ではオンラインでの申告が可能です。実際にオンラインでの申告を義務付けている州もあり、紙で申告すると罰金が科されることもあります。
なお、課税対象期間中に売上税を一切徴収していない場合でも、「ゼロ申告(zero return)」の提出を義務付けている州が多くあります。ゼロ申告とは、「売上税を徴収していないが、ビジネスは継続している」ということを州に報告するためのものです。この申告を怠ると、売上がなくても罰則を課される可能性があります。
売上税は期限内に申告することで金銭的な優遇措置を受けられることもあります。多くの州では、売上税の負担が重いことを考慮し、早期または期限内に納税した事業者に対して、一定額の「売上税割引(sales tax discount)」を設けています。
各州の売上税申告期限を事前に調べて、カレンダーに記録しておくことをおすすめします。
Shopify Taxを利用している場合は、いつ・どこに申告が必要かを自動で知らせてくれる「スマート通知機能」があるため、申告忘れの防止にも役立ちます。
州ごとの売上税率
アメリカの売上税率は州ごとに異なり、おおよそ2.9%〜7.25%の範囲で設定されています。
- 高税率(7%前後):カリフォルニア州(7.25%)、テネシー州など
- 中間(6〜6.875%):ミネソタ州、テキサス州など
- 低税率(5%未満):コロラド州(2.9%)など
- 売上税のない州:モンタナ州、オレゴン州など
地方税が加算される場合もあり、実質の税率は地域によって大きく異なります。
売上税を徴収しないとどうなる?

ネクサスのある州で売上税を徴収しないと、場合によっては、州から高額の罰金や売上税許可証の取り消し、刑事告訴などの厳しい処分を受ける可能性もあります。さらに、州が未納税の回収手段として、事業資産や個人財産に先取特権を設定することもあります。
購入者から受け取っていなくても、本来の税額は事業者が支払う義務があり、利息や罰金が加算されることで負担が膨らむこともあります。
まとめ
アメリカでの越境ECにおいて、売上税の理解と対応は避けて通れない重要事項です。
本記事で紹介したように、州ごとに税率や課税ルール、免税条件が異なるため、事業者は販売対象地域と商品ごとの取り扱いを明確に把握しておく必要があります。
Shopify Taxなどのツールを活用すれば、複雑な税務処理を自動化し、ミスや手間を最小限に抑えることができます。まずは、自社の商品、販売地域、販売チャネルに応じて必要となる売上税対応事項を整理し、適切な申請・登録や設定、レポート作成、申告スケジュールについて確認を進めましょう。
よくある質問
売上税を課す必要があるかどうか、どう判断すればいい?
販売先の州で、物理的または経済的なネクサスが成立しているかを確認しましょう。判断に迷う場合は税理士などの専門家に相談してください。
売上税の計算方法は?
商品の販売価格に州の税率を掛けて計算します。ただし、税率は州や自治体、商品カテゴリなどによって異なります。
オンライン販売でも売上税は必要?
販売先の州に店舗や倉庫などの物理的拠点がある、または一定の売上基準を超えている場合、売上税を徴収する必要があります。
売上税の申告頻度は?
申告頻度は州ごとに異なり、月ごと・四半期ごと・半年ごと・年1回などさまざまです。
アメリカの売上税が免税されるのはどんな場合?
州によって細かな規定は異なりますが、非営利団体や慈善団体への販売については、売上税が免除される場合があります。また、食料品やデジタルコンテンツなど特定の商品については、税率が軽減されたり、免除されたりすることがあります。
文:Yukari Watanabe