越境ECとは、ECサイトを通じて、海外の消費者に向けて商品やサービスを販売することです。日本国内だけでビジネスを展開するよりも、海外の消費者をターゲットにすることで市場が何倍にも広がります。2029年までに、オンラインで買い物をする人の数が36億人に達し、世界の人口の約半数(49.1%)がECを利用するようになると予測されています。
Shopifyのようなプラットフォームを活用すれば、海外向けのECサイト構築も簡単です。この記事では、これから越境ECを始めたい人や、すでに越境ECを始めている人に向けて、2025年の越境ECの市場規模や、世界の最新トレンドを紹介します。
越境ECの市場規模

世界の越境EC市場は急速に拡大しており、今後も成長が続くと予測されています。特に、B2C型の越境EC市場は、2030年までに7.9兆米ドル(約1,164兆円)に達する見込みです。
特にアジア市場や、急成長を遂げている東南アジア・ラテンアメリカなどの新興市場は、今後も成長が期待されています。
日本・中国・米国間の越境EC
経済産業省の「令和5年度電子商取引に関する市場調査」によれば、日本の消費者による海外事業者からの購入額は増加傾向にあります。日本・中国・米国の三国間の越境ECで見ると、日本の消費者の購入額は2024年に米国からは3,768億円、中国からは440億円で、市場規模は合わせて4,208 億円に達しています。
また、日本の事業者による海外への販売額も増加しています。中国の消費者による購入額は2024年に2兆4,301億円となっており、前年度と比較して7.7%も増加しています。また、米国の消費者の購入額も1兆4,798億円となっています。
世界のEC市場に関する主要な統計データ

1. 中国 - 2025年もEC市場を牽引するが逆境も
中国はEC小売市場の規模の約5割という、世界最大のシェアを占めています。2023年には、41か国を対象とした調査で、越境ECの注文の約40%が中国のEC企業へのものであったことが明らかになりました。米国、英国、日本でも、購入先として中国が最も選ばれています。
2025年のEC市場は1.38兆米ドルに達し、引き続き世界のEC市場を牽引していくことが予測されます。2029年には、市場規模が1.86兆ドル、ユーザー数は14億人まで拡大する見込みです。
ただし、中国自体の経済成長は、2025年にやや減速することが予想されています。特に、不動産市場の低迷や高い失業率が消費者の購買意欲を抑制するとみられ、中国での価格戦略の見直しを進めている企業もあります。また、安価な中国製品が自国に大量流入することを防ごうと、多くの国が中国の越境ECに対する規制をかけ始めています。
2. 米国 - Z世代の消費でEC利用者が増加
米国でも、EC市場は引き続き拡大傾向にあります。2025年2月の米国国税調査局の報告書(英語)によると、米国における2024年のECの売上は、2023年より8.1%増加し、1兆1,926億ドルに達しました。小売全体の売上におけるECの割合をみても、2023年の15.3%から2024年には16.1%に増加しており、ECの利用者が増えていることがわかります。
米国でEC利用者が増加している理由として、インフレが続く中で、実店舗よりも割安な商品を求める消費者が増えたことが挙げられます。
また、スマートフォンに慣れ親しんだZ世代が労働市場へ参入したことも要因の一つです。Z世代はサステナビリティーへの関心が高いという傾向にあるため、特に古着などの中古品が人気で、ECの中でもリユース市場・リセール市場が急成長を遂げています。
低所得層を中心にBNPLの利用が増えているという特徴もあります。
3. 欧州 - 環境意識が鍵に
ヨーロッパのEC市場は、2025年に7,079億米ドルに達し、2029年には9,612億米ドルまで拡大すると予測されています。ECの普及率も上昇しており、2025年の47.6%から2029年には55.8%に達する見込みです。特に、イギリスがEC市場を牽引しており、消費者のオンライン購入率が高くなっています。イギリスは、EC化率も中国に次いで世界2位で、ECの売り上げは、小売全体の30%以上を占めています。
ヨーロッパ市場の特徴としては、環境への意識が高く、環境に配慮した商品やエシカル商品が求められています。2024年には、包装および包装廃棄物に関して、過剰な包装を禁止し、パッケージに一定の割合以上、リサイクル可能な材料を使用することを求める、新たな規則も採択されました。
4. 韓国 - モバイルECとオムニチャネルを軸に進化
韓国は、世界でも有数のEC市場規模を誇る国の一つです。インターネット普及率は94%に達し、ECは国内の消費行動に深く根付いています。特に20〜39歳の若年層の98%以上がオンラインショッピングを利用しており、EC市場の成長を支えています。2025年のEC市場規模は約1,800億ドルに達すると予測されており、アジア市場の中でも安定した成長が見込まれています。
韓国のEC市場の特徴としては、モバイルECの強さが挙げられます。スマートフォンの普及率が高く、オンライン取引全体の大部分をモバイル経由が占めています。これにより、韓国のEC企業はモバイル向けの購買体験を強化し、アプリベースの取引を主軸に成長を続けています。
また、韓国はオムニチャネル戦略の導入も進んでいます。オンラインとオフラインの融合が加速し、実店舗とECを組み合わせた販売戦略が主流になりつつあります。消費者はオンラインで購入し、店舗で受け取るようなサービスを活用することで、より利便性の高い購買体験を享受しています。
5. 東南アジア - ライブコマースが好調
東南アジアのEC市場は急成長しており、シンガポール、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムにおける、2024年のECの取引額は1,590億ドルと試算されています。中でも、フィリピンのEC市場は2023年に24.1%の成長を記録し、世界で最も急成長している市場のひとつです。若い世代が多く、テクノロジーの導入に積極的なこともEC市場の成長につながっています。
東南アジアにおけるECの成長を支えているのがライブコマースの急速な普及です。シンガポールのモメンタム・ワークス社の調査(英語)によると、東南アジアにおいて、TikTok Shopを通した売り上げは、2022年~2023年で約4倍に増加しています。
6. インド - 政府主導でEC市場も成長
14億人以上の人口を抱えるインドでは、オンラインショッピングの利用者が2027年までに4億2700万人に達すると予測されており、2030年には、ECの市場規模が3,000億ドルを超えると見込まれています。
インド政府は、インターネット環境を整備し、電子決済や行政サービスのオンライン化などを推進する「デジタル・インディア」構想を掲げており、インドEC業界のデジタル化推進を担っています。消費者と企業の両者がECを積極的に採用しています。
特に成長しているのはソーシャルコマースです。インドの消費者は、1日平均3時間以上をSNSに費やしているため、企業にとってはマーケティングを仕掛ける絶好の機会となっています。
7. ラテンアメリカ - スマートフォンの普及でEC市場が急成長
ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、チリ、ペルー、コロンビアといったラテンアメリカ諸国では、2023年からECの市場規模が年間平均22%成長し、2026年の売上は合計で7,000億ドルを超えると予測されています。市場の約30%を占める主要プレイヤーは、ブラジルとメキシコです。競争は激化していますが、アルゼンチン、チリ、ペルー、コロンビアも成長をみせています。
ラテンアメリカにおけるEC市場の急成長を支えている要因のひとつに、スマートフォンの普及があります。モバイル端末の普及によってインターネットへのアクセスが広がり、結果としてデジタルショッピングの普及が加速しました。ラテンアメリカでは、ECサイトのトラフィックの約85%がスマートフォン経由であり、スマートフォンがEC市場の中心的な役割を担っています。
8. 航空貨物運賃の高騰
コロナ禍では、旅客便の停止によって貨物輸送能力が減少し、航空貨物運賃が高騰しました。2024年に入り、貨物輸送能力はコロナ禍前と同じ水準に戻りましたが、運賃はなお高騰したままです。背景に、海上貨物のスペースが高騰し、航空貨物が増えたことがあります。また、ECが好調な中国発の貨物が、日本を経由して、欧米に運ばれるケースが増えたことも要因のひとつです。日本発の航空貨物スペースが逼迫し、運賃が上がるという現象が起きています。
ECの拡大傾向が続いているなかで、季節的な要因ではなく、長期的な要因として影響を及ぼす可能性があります。
2025年世界のEC市場のトレンド

AIの活用
AIは、越境EC市場において、ますます重要な役割を果たすようになっています。AIを活用したパーソナライゼーションが進化し、ユーザーごとの購買履歴や閲覧データに基づいて、最適な商品を提案できるようになっています。これにより、消費者は自分の好みに合った商品を見つけやすくなり、購入率の向上につながっています。
また、AIチャットボットの導入が進み、24時間対応のカスタマーサポートが可能になりました。特に多言語対応のAIは、海外の消費者に適したサポートを提供し、言語の壁を超えたスムーズな取引を実現しています。さらに、AIによる在庫管理や需要予測の精度が向上し、過剰在庫や欠品のリスクを軽減することで、EC事業者のコスト削減にも寄与しています。
モバイルコマース
モバイルコマースとは、スマートフォンやタブレットを活用したEC取引を指します。これまで、パソコンでの注文と比較して、モバイル経由の平均注文額は低い傾向がありましたが、近年、スマートフォンの普及や決済方法の多様化、アプリのベースのEC拡大などにより、状況が変化しています。
特にアジア市場では、スマートフォンを活用したEC取引が主流となっており、世界のモバイルEC市場を牽引しています。2021年末時点で、マレーシアはモバイル決済の利用率が最も高い国の一つで、国民の約45%が週に1回以上スマートフォンで買い物をしていました。 これに続き、韓国、台湾、フィリピンなどでも、モバイルを利用したショッピングの利用率が高くなっています。
ソーシャルコマース
ECの中でも、SNSで他のユーザーとつながったり、コンテンツを共有したりしながら、商品やサービスを宣伝するソーシャルコマースが、著しい成長をみせています。Future Market Insights(フューチャー・マーケット・インサイト)社の調査(英語)によると、世界のソーシャルコマース市場規模は年平均30%で急成長をしており、2030年には13兆ドルに成長すると予測されています。
急成長の要因としては、TikTok(ティックトック)、Instagram(インスタグラム)、Facebook(フェイスブック)などのSNSプラットフォームのEC統合が進んでいることが挙げられます。
若年層を中心に、情報収集やショッピングの手段としてSNSが主流になりつつあり、ブランドにとっても、SNS上での直接販売が欠かせないものとなっています。特に、ユーザーが投稿する口コミやレビュー、実際に使用している様子を紹介するUGC(ユーザー生成コンテンツ)は他の消費者の購買行動に大きな影響を与えています。ブランドにとっては、より自然な形で商品の魅力を伝えられるようになっています。
ライブコマース
ライブコマースは、リアルタイムの動画配信を通じて商品を販売する手法で、視聴者は配信中に商品を購入することができます。配信者と視聴者は、コメント機能を通じて、双方向のコミュニケーションを取れるため、疑問点をその場で解決しながら購買に至るケースが多く見られます。
中国や東南アジアではライブコマースが非常に好調であり、その影響が欧米や日本の市場にも波及する可能性は十分にあるでしょう。ライブコマースは、従来のECサイトよりも購入までのプロセスを短縮できる点も魅力です。
ボイスコマース
ボイスコマースとは、音声アシスタントを活用して、商品を検索・注文・購入するECの形態です。Amazon Alexa、Google Assistant、Apple Siriなどを搭載したスマートスピーカーや、スマートフォンの音声認識技術を活用して、ハンズフリーでのショッピングが可能になります。手を使わずに簡単に買い物ができるため、忙しい消費者や高齢者層にも普及が進んでいます。
ボイスコマース市場は急成長しており、2025年には世界の市場規模が400億ドルを超えると予測されています。
環境に配慮した商品
世界各国で、積極的に環境に配慮した、サステナブルな商品が求められています。配送時の環境負荷を低減する「グリーン配送」の取り組みも進んでおり、エコパッケージの導入や、二酸化炭素排出量を抑える配送方法の選択肢が増えています。フェアトレードやローカル生産の商品にも関心が高まっており、エシカル消費の流れが拡大しています。
また、消費者自身も環境負荷の少ない商品を選ぶ傾向が強まっているため、企業にとってはブランドの価値を高める要因にもなっています。
オムニチャネル
消費者の購買行動が多様化し、オンラインとオフラインの境界がますます曖昧になっている今、オムニチャネル戦略の重要性が高まっています。実店舗とECサイトをシームレスに連携させ、消費者がどのチャネルでもスムーズに買い物ができる環境が求められています。
PCやスマートフォン、アプリ、店舗端末など、あらゆるデバイスでスムーズな購買体験を提供することが重要になってきています。
ARの活用
AR(拡張現実)技術の発展により、オンラインショッピングにおける商品体験が大きく変わりつつあります。これまで、ECサイトでは実際に商品を手に取ることができないという課題がありましたが、ARを活用することで、バーチャル試着や3D表示を通じて、よりリアルな購買体験を提供できるようになりました。
アパレル業界では、スマートフォンのカメラを使って服やアクセサリーを試着できる機能が導入され、家具やインテリア業界では、自宅の空間に仮想的に商品を配置できるシステムが広がっています。返品率の低下や購買決定までの時間短縮にもつながるため、EC事業者にとっても大きなメリットがあるといえるでしょう。
メタバースでの販売
メタバース(仮想空間)は、越境EC市場においても新たな販売チャネルとして注目されています。企業は、バーチャルストアを構築し、消費者がアバターを使って店内を歩き回りながら商品を閲覧・購入できる環境を提供しています。
例えば、アパレルブランドでは、3D試着機能を活用し、バーチャル空間で服を試着する体験を提供することで、オンラインショッピングの不安を軽減しています。また、家具や家電などの高額商品についても、メタバース上で実際の空間に配置してサイズ感を確認することができるようになっています。
さらに、メタバースはブランドコミュニティの形成にも活用されています。企業は仮想イベントを開催し、ファン同士の交流や限定商品の販売を行うことで、顧客のロイヤリティを高めることができます。今後、メタバース内での決済や取引がよりスムーズになるにつれ、EC市場におけるメタバースの影響力はさらに拡大すると考えられています。
2025年日本からの越境ECの動向

2025年の日本の越境ECは、訪日観光客の増加とともに成長が期待されています。訪日観光客が増加すると、滞在中に試した商品を、帰国後にオンラインで購入したいと考える人が増えるからです。
新型コロナウイルスの影響で一時的に減少していた訪日外国人観光客数は、2024年には約3,686万人と過去最高を更新しました。さらに、2025年には大阪・関西万博が開催され、約2,820万人の来場者が見込まれており、訪日観光客数はさらに増加すると予想されています。
さらに、円安の影響も越境ECの追い風となっています。日本の商品が海外の消費者にとって割安に感じられることで、購買意欲を刺激しています。
日本からの越境ECでよく売れている商品
- 衣類
- バッグ
- ブランド小物
- 時計、アクセサリ
- カメラレンズ、フィルター
- キャラクターグッズ
- アニメグッズ
- 自動車パーツ
- フィルムカメラ
- トレーディングカード
- デジタルカメラ
- 日本製スニーカー
- 日本製ゴルフクラブ
まとめ
2025年、越境EC市場は訪日観光客の増加と円安の影響で、日本でも拡大が期待されています。世界的には、AIやAR、メタバースの活用などの最新技術がEC市場を変革し、オンライン購買の利便性が高まっています。SNSを活用したソーシャルコマースやライブコマースも急成長し、口コミやインフルエンサーの影響が購買行動に直結する時代になっています。
日本の越境EC市場もこうしたトレンドに対応することが求められます。ShopifyのようなECプラットフォームを活用すれば、多言語対応や幅広い決済オプション、物流の最適化は容易で、海外展開をスムーズに進めることが可能です。さまざまな技術を活用して、世界に販路を広げてみましょう。
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よくある質問
越境ECとは何ですか?
越境ECとは、ECサイトを通じて、海外の消費者に向けて商品やサービスを販売することを指します。
越境ECを始めるメリットは?
越境ECを活用することで、国内市場だけでなく海外の消費者にも商品やサービスを提供でき、市場規模を拡大することが可能です。また、海外の需要を取り込むことで売上増加が期待できます。
文:Taeko Adachi