ECサイトを運営する際には、事業内容によっては許認可の取得が必要です。たとえば、ネットで食品販売を行う場合、無許可で販売すると罰則の対象になることがあります。自分で焙煎したコーヒー豆や、サプリメント・健康食品の販売に対しても許認可が必要です。
本記事では、ECオーナー向けに取得が必要な業種一覧や申請方法など、許認可の基本をわかりやすく解説します。さらに、許認可を取得しないリスクや申請の適切なタイミングについても詳しく説明するので、ECサイトを安心して運営するために、事前にチェックしておきましょう。
許認可とは

許認可とは、ある特定の事業を行うために必要な政府や自治体といった行政機関からの許可のことです。取り扱う商品によって、保健所などの行政機関に必要な書類を提出して申請する必要があります。許認可が必要な事業でありながら許可を得ずに営業すると、場合によっては罰金や懲役などの刑事的罰則が科されます。
例えばECサイトで食品を取り扱う場合、食品衛生責任者の資格や、場合によって「密封包装食品製造業」の許可と届出が必要になることがあります。また、石鹸を美容効果がある化粧品として販売する場合など、用途によっては薬機法に定められた許可が必要です。無許可営業をすると罰則の対象となるため、事業を始める際は自分の業種にどのような許認可が必要かを事前に確認し、場合によってはコンサルに相談するなどして適切な手続きを行いましょう。
許認可の種類5つ

事業を行うための許認可は、手続きの違いや目的などによって大きく5種類に分類されます。
届出
届出とは、事業を開始する際に、行政機関に対して事業内容を報告する手続きです。行政や管轄機関が適切に監督・指導できるように、事業者が必要な情報をあらかじめ提供しておく目的があります。例えば、ECサイトで食品を販売する際には、食品衛生法に基づき、保健所に営業開始の届出を行う必要があります。虚偽の内容を届け出た場合などには営業許可の取り消し、営業の禁止又は停止などの罰則が科されることがあります。事業内容が違法なものではなく、書類に不備がなければ基本的に受理されます。事業を開始する際に税務署へ提出する開業届も、この中に含まれます。
許可
許可とは、法律で禁止されている行為を特定の条件を満たした者に対して特別に認めることです。厳格な審査や基準をクリアする必要があり、例えば東京都の場合、「菓子製造業」は食品衛生法の基準に基づく施設(手洗い場や作業段階で分かれた区画等)が必要で、許可を受けずに事業を行うと法律違反となり罰則が科される可能性があります。独自に製造したお菓子をECサイトで販売したい場合は注意が必要です。
免許
免許とは、特定の資格や能力を有する者に対して、一定の業務を行うことを認める手続きです。免許を取得するには、試験や講習の受講などにより専門的な知識や技能を証明することが求められます。酒類の製造・販売にも免許が必要なため、クラフトビールなどを製造しECサイトで販売したい場合は免許の取得が必須です。
登録
登録とは、特定の事業を行うために、行政機関の名簿に事業者として記載される手続きです。登録制度は、事業者の情報を公的に管理し、一定の基準を満たす者だけが業務を行えるようにするものです。例えば、旅行業を営む場合、旅行業法に基づき、観光庁長官または都道府県知事への登録が必要です。登録を受けるには、資本金や営業所の設置など、法律で定められた要件を満たす必要があります。
認可
認可とは、事業者が行う特定の行為や契約について、行政機関がその適法性や適正性を確認し、一定の基準を満たしていると認める手続きのことです。認可が必要な行為は、各種学校、幼稚園、保育所などの公共性が高いものが対象になることが多いです。行政機関が確認をするため一定の時間が必要ですが、認可があれば助成金などを受けやすいというメリットがあります。
許認可が必要な事業の例

美容関係
ECサイトで扱われる美容関連の商品としては、化粧品やヘアケア製品などが挙げられます。これらを販売する際、他社が製造した製品をそのまま仕入れて販売する場合は、特別な許可は不要です。しかし、自社で製造した化粧品を販売する場合や、海外から直接輸入して販売する場合は「化粧品製造業許可(自社で化粧品を製造する際に必要)」や「化粧品製造販売業許可(製造した化粧品を市場に流通・販売するための許可)」が必要です。
これらの許可は、各都道府県の薬務主管課に申請し、取得する必要があります。また、製造販売業許可を取得するには、薬剤師などの資格を持つ総括製造販売責任者の配置が求められます。
食品・飲料
食品の製造、加工、調理、販売などを行う全ての事業者はHACCP(ハサップ:製品の衛生管理を行う手法)に基づいて衛生管理を行う必要があります。例えば、手作りのお菓子を製造販売したり自分で焙煎したコーヒー豆を販売する場合、食品衛生法に基づく営業許可が必要です。この許可を得るには、各都道府県の保健所で必要な設備があることを審査してもらうため、図面等を提出して申請を行います。また、食品衛生責任者の資格を持つ人も配置する必要があります。
一方、常温で長期間保存しても腐敗しない包装済みの食品を仕入れて販売する場合などは、特別な許可は不要とされています。ただし、製造から行う場合や、仕入れた食品を小分けにして再販売する場合は、別途許可が必要となるため、事前に保健所に確認することが重要です。
酒類
ビールや日本酒などの酒類をECサイトで販売するには、酒税法に基づく「一般酒類小売業販売免許」または「通信販売酒類小売業免許」が必要です。後者の免許は、2都道府県以上や、国内販売のECと海外向けの越境ECを考えている場合に必要となります。申請は、販売業免許を受ける所在地の税務署で行います。また免許取得後は、酒類販売管理者の選任や未成年者への販売防止措置など、法令に基づく管理体制の整備が求められます。
電気製品
電気マッサージ器や電動おもちゃなどの電気を使用した商品を販売する際は、電気用品安全法の対象となる場合があります。この法律では、対象製品に対して「PSEマーク(電気用品安全法の基準を満たした製品につけられるマーク)」の表示が義務付けられており、PSEマークがない製品の販売は違法となります。
電気用品安全法の対象となる製品を製造したり輸入したりして販売する場合、事業者自身が経済産業省が公開している手続きの流れに沿ってPSEマークの取得手続きを行う必要があります。代行業者を利用して申請することも可能です。
電波を使用する製品
無線機器やBluetooth(ブルートゥース)機器など、電波を使用する製品を販売する場合、電波法に基づく「技術基準適合証明(技適マーク)」の取得が必要です。技適マークは、製品が日本の技術基準に適合していることを示すもので、このマークがない製品の販売や使用は法律で禁止されています。特に海外から輸入した無線機器を販売する際は、技適マークの有無を必ず確認し、未取得の場合は適合性評価を受ける必要があります。
技適マークは、総務省が指定してる登録証明機関に検査を依頼することで取得することができます。
ペットフード・動物用医薬品
ペットフードを販売する場合、犬や猫の栄養になるもので動物用医薬品以外の製品については、ペットフード安全法に基づき製造業者や輸入業者が事業を開始する前に農林水産省へ届出を行なう必要があります。また、販売記録の保存義務があり、帳簿を作成し、2年間の保存が義務付けられています。
動物用医薬品の販売は、薬機法に基づく「動物用医薬品販売業許可」が必要です。なお対象となるかどうかは、含まれている成分、効能、形状などによって変化します。この許可を取得するには、都道府県の動物薬事担当窓口への申請が必要であり、販売に際しては薬剤師などの有資格者の配置が求められます。
必要な許認可を確認する方法

どの許認可が対象になるのかは、販売したい商品の種類や、自社で製造するかどうかといった条件によって異なります。多くの場合、申請書類や許認可の基準について行政機関がウェブサイトで公開しているため、検索エンジンや各都道府県のホームページで「(取り扱う商品ジャンル) 許認可」と検索すれば必要な許認可を確認することができます。
許可や認可を確認する際のポイント
許可や認可などの申請が必要なものは、基本的に「許可されていない」が、申請することによって販売や製造が可能になるものであることを認識しておきましょう。購入者の健康にかかわる食品や化粧品などは特に厳しく、基準を満たす設備が整っていることを証明し審査してもらうため、営業施設の工事計画段階からの図面提出なども求められます。それだけ手間がかかることを認識しておき、書類や基準についての情報収集は事業開始の数か月前から進めておきましょう。必要に応じて、専門家に相談するのもよいでしょう。
また、許可が下りた後も定期的な許認可の更新や管理内容の報告義務が発生するケースがあるため、販売開始後も法令を遵守し、適切な運営を継続できる体制を整えておくことも大切です。
登録や届出を確認する際のポイント
登録や届出は、基本的には許可されているものを各機関に通知する行為です。例えば、製造は行っていないものの、包装された食肉品を販売する場合は届出が必要です。許可ほど厳しくはないため必要な書類を提出するだけで済む場合も多く、事業の開始後でも問題ないものもありますが、なかには年度ごとの登録や届出の期日が決まっていることもあるため、必ず確認しておきましょうもあります。
「営業開始に間に合わなかった」「実は必須要件が足りていなかった」といったトラブルがないように、あらかじめ申請しておくことをおすすめします。また、販売開始後の定期的な報告や表示義務が課される場合があります。特に輸入品を扱う場合は、輸入後に加工をすることで新たな申請が必要だったり、変更があった際に追加の届出が必要になったりすることもあるため、継続的に最新の情報を確認することが大切です。
許認可の申請を行う際の注意点3つ

1. 最新の法令や規制を必ず確認する
許認可に関する法令は頻繁に改正されるため、申請前に最新の情報を確認することが不可欠です。例えば、ECサイトでよく販売されている健康食品を販売する際は、薬機法に基づいて商品説明や広告の表現に規制が入る場合があります。そのため、法律が改正され違反だと判断される基準が変更された場合、パッケージの表現を変更する必要があります。厚生労働省や経済産業省などの公式サイトで最新のガイドラインを確認し、適切な手続きを行いましょう。
2. 申請書類の不備を防ぐ
申請書類の不備があると審査が遅れる原因になります。許認可の種類によって必要な書類は異なり、提出内容にミスがあると再提出が求められることもあります。製品規格の記載ミスや提出書類の漏れがないように提出前に公式ガイドラインを確認し、慎重にチェックすることが重要です。
3. 余裕をもったスケジュールを立てる
許認可の取得には一定の審査期間が必要であり、余裕をもったスケジュール管理が不可欠です。例えば、酒類販売免許の申請では、役所から書類を取り寄せたり販売所の様子などを書類で準備したりする必要があるため、初めての申請だと準備に数ヶ月かかることもあります。申請が遅れると販売開始予定に間に合わない可能性があるため、逆算して早めに手続きを始めましょう。
まとめ
ECサイトを運営する際、事業内容によっては許認可の取得が必要です。無許可で販売すると罰則を受けたり、信用を失ったりする可能性があるため、適切な手続きを踏むことが重要です。特に食品や酒類、医薬品、古物などを扱う新規事業を始める場合は、事前に許認可の要件を確認し、早めに申請を進めましょう。また、許認可が必要な業種は変更されることもあるため、最新の情報をチェックすることも大切です。開業に必要なことが多く困難に直面することもあるかもしれませんが、この記事を参考にして適切な許認可を取得し、ECサイトを立ち上げ、安心して商品を販売しましょう。
よくある質問
許可事業とは?
許可事業とは、法律で許可が必要と定められた事業のことです。飲食店や建設業、運送業などが該当し、国や自治体の許可を得なければ営業できません。許可を取得するには、事業内容が法令基準を満たしていることを証明し、申請書類を提出する必要があります。
許認可を取得しないとどうなる?
適切な許認可を取得しないと、営業停止や刑事罰の対象になる可能性があります。たとえば、無許可の医薬品販売では3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金が課される可能性があります。また、金融機関からの融資を受ける際に、許認可が必要となる場合もあります。さらに、許認可がなければ一定金額以上の仕事を受注できず、事業内容に制約が生じることもあります。
文:Ryotetsu