職場にいる、あなたが影響を受けた人物を思い浮かべてみてください。なぜその人に惹かれたのか、理由を具体的に説明できますか?たとえば、上司が正直で、人間関係を大切にし、厳しい決断を下す際にも自分の信念を貫く人だったとしたら、その本質的な姿勢を、あなたは「本物」で「誠実」だと感じたのかもしれません。
本物のリーダーは、自身の信念体系に基づいて意思決定を行い、人を第一に考えます。リーダーシップスキルを向上させたいと考えていなら、本物のリーダーであるために大切な「オーセンティックリーダーシップ」を理解しましょう。
オーセンティックリーダーシップとは?
オーセンティックリーダーシップは、倫理、感情的知性、そしてチーム全体の利益を優先するマネジメントスタイルです。オーセンティックリーダー(本物のリーダー)は、確固たる価値観と従業員の幸福への配慮をもって組織を導きます。この真摯なアプローチは、リーダーが信頼を得て、忠誠心を育み、長期にわたって持続する意思決定を行うのに役立ちます。
メドトロニックの元CEO、ビル・ジョージは、2003年に出版した著書『Authentic Leadership』で、オーセンティックリーダーシップの概念をビジネス文化の中に広めました。ジョージのオーセンティックリーダーシップ理論は、リーダーの価値観、目的、心、関係性、自己規律が、倫理的で使命に基づいた意思決定を可能にすると強調しています。
経営学者たちもまた、オーセンティックリーダーシップを研究しています。経営学教授のブルース・J・アヴォリオとウィリアム・L・ガードナーによる2005年の論文「Authentic Leadership Development: Getting To the Root of Positive Forms of Leadership(オーセンティックリーダーシップ開発:ポジティブなリーダーシップの根源を探る)」では、マネジメントスタイルの文脈において、オーセンティックリーダーシップ理論が考察されています。
オーセンティックリーダーの5つの特徴
本物のリーダーは、道徳的な指針を持ってリーダーシップを発揮し、組織とそのミッションに対して揺るぎないコミットメントを示します。ジョージによれば、このようなリーダーに共通するオーセンティックリーダーシップの特徴が5つあります。
1. 価値観
本物のリーダーは、自身の倫理に基づいた核となる価値観に従って生きています。これらの倫理観と道徳観を、大小を問わずあらゆる意思決定の指針としているのです。
2. 目的
リーダーが取る誠実な行動は、目的意識から生まれます。彼らは組織全体を考え、個人的な野心よりも核となる使命を優先します。この目的意識を核となる価値観と組み合わせることで、優れたリーダーとなることができます。
3. 心
本物のリーダーは、意思決定を行う際に、財務的な結果だけでなく、感情的な側面も考慮します。彼らは戦略的思考と共感を組み合わせ、チームメンバーの個人的なニーズを重視します。また、自己認識力も高く、自分の強みや限界、他者からの認識、そして自分の行動が他者に与える影響を理解しています。
4. 人間関係
本物のリーダーは、人間関係の構築を重視します。彼らは同僚との有意義なつながりを築くことで、同僚の仕事の満足度を大切にし、仲間の成功を願います。リーダーは、個人的な出来事を共有したり、戦略的な意見を求めたり、良き聞き手になったり、自己認識を深めたり、助言したりすることで、人間関係を築くことができます。
5. 自己規律
規律あるリーダーは、自身の行動を巧みにコントロールし、設定した目標に集中できます。彼らは他の従業員にとっての模範となり、その結果、従業員は組織に心からコミットする意欲を掻き立てられます。
オーセンティックリーダーシップと他のリーダーシップスタイルの違い
起業家、経営者、管理職は、チームを導くためにさまざまなリーダーシップスタイルを使用します。ここでは、オーセンティックリーダーシップが他の主要なマネジメントスタイルとどのように比較されるかを示します。
- 取引的リーダーシップ。取引的リーダーは、報酬と罰のシステムに依存して従業員のパフォーマンスを向上させ、利益を増加させます。本物のリーダーと比較すると、取引的リーダーはパフォーマンス関連のベンチマークを達成するのが得意かもしれませんが、中核となる目的や使命のもとにチームを一致団結させる点では本物のリーダーよりも劣る可能性があります。
- 変革型リーダーシップ。変革型リーダーは、変化を強調し、従業員が共通のビジョンを達成するように鼓舞します。彼らは大規模で長期的な目標に焦点を当てることが多いです。本物のリーダーと比較すると、変革型リーダーはチームメンバーの日々の仕事の状況をあまり把握していない場合があります。
- 奉仕型リーダーシップ。このマネジメントスタイルを用いるリーダーは、他者のニーズを最優先します。本物のリーダーと同様に、奉仕型リーダーは強い関係を築き、同僚がキャリアを進める手助けをします。しかし、奉仕型リーダーは、好かれたいという欲求から、本物のリーダーよりも目的や倫理規範に対する結びつきが弱くなることがあります。
オーセンティックリーダーシップの影響
職場は、その職場を率いる人々の鏡です。本物のリーダーは、全員が価値観、目的、情熱、人間関係、そして自制心といった同じ基本原則を掲げる職場環境を育むことができます。こうした原則が確立されると、チームメンバーは恥や拒絶、報復を恐れることなく、自由にアイデアを共有できるようになります。
ある研究によると、信頼と透明性を育むことで、オーセンティックリーダーシップはより革新的な職場行動を促進することがわかっています。また、2021年の学術論文「Authentic Leadership and Improved Individual Performance: Affective Commitment and Individual Creativity’s Sequential Mediation(オーセンティックリーダーシップと個人のパフォーマンス向上: 感情的コミットメントと個人の創造性の逐次的媒介)」では、「オーセンティックリーダーシップは、従業員の組織への感情的なつながりを強化し、それによって個々の創造性を高め、結果として職場でのパフォーマンスを向上させる」と結論づけています。つまり、価値観、目的、心、関係性、自己規律を中心に据えることで、管理職は自らの職務遂行を改善するだけでなく、組織全体の行動をも向上させることができるのです。
オーセンティックリーダーシップを実践する方法
オーセンティックリーダーシップの核となる原則を受け入れることで、より良いリーダーになることができます。ここでは、より本物のリーダーになるための5つの重要なステップを紹介します。
1. 価値観を確立する
本物のリーダーは、倫理と個人的な価値観によって導かれています。自己反省を通じて、リーダーシップを発揮する上での核となる価値観は何か、そしてそれをどのように従業員に示していくかを考えてみてください。たとえば、ワークライフバランスがあなたの価値観の一つであるなら、自分自身に明確な境界線を設け、チームメンバーの境界線を尊重することで、それを示しましょう。
2. 心で導く
本物のリーダーは目標を大切にしますが、その目標を追求する中で、ポジティブな職場環境を維持します。新たな成果に向けてチームを導く際には、従業員の幸福にも目を向けてください。彼らは組織と共に成長していますか?あなたが割り当てたタスクに満足しているように見えますか?会社の成功とチームメンバーの成功を調和させる方法を見つけましょう。
3. チームとの対話を行う
本物のリーダーは、職場で指示を連発するようなことはせず、チームとの対話を重視します。戦略的な意見やフィードバックを求め、共感を持って人間的な言葉で同僚と話しましょう。ビジネス用語の使用を避け、日常業務の枠を超えた会話の機会を探し、追求している大きな目標をみんなで共有しましょう。
4. 言行一致を実践する
本物のリーダーは、従業員に多くを求めることができますが、自分がやりたくないことを他人に求めることはありません。従業員に共同キッチンの掃除を依頼する場合は、そのシフトの一部を自分にも割り当ててください。本物の行動を示し、他者にも本物の行動を期待しましょう。
オーセンティックリーダーシップに関するよくある質問
オーセンティックリーダーシップにはどんな課題がありますか?
オーセンティックリーダーシップの課題のひとつは、それが組織全体に浸透するのに時間がかかることです。特に、従業員が上司のオーセンティックリーダーシップを反映して自分の行動を変えるように求められる場合は、なおさら時間がかかります。
リーダーが他の重要なリーダーシップ特性を犠牲にして「本物らしさ」を過度に強調することは可能ですか?
はい、本物のリーダーが、短期的な具体的な結果を犠牲にして「本物らしさ」を強調することは可能です。組織が方向転換を迫られている場合(たとえば、倒産を避けるために収益を急増させる必要がある場合)、その目標を達成するには、オーセンティックリーダーシップではなく、権威的なリーダーシップの発揮が必要になるかもしれません。
リーダーシップにおいては経験よりも「本物らしさ」の方が重要ですか?
「本物らしさ」はしばしば経験から生まれます。これは、本物のリーダーが道徳的価値を最優先にし、そのような価値が往々にして人生経験から生まれるからです。